《MUMEI》
愛車
マロージャーが徒歩で来てたので車で送ることにした。

「君のその底無しの明るさに救われるんだろうね。」

意外とマロージャーは話すタイプで、途切れない。


「救われるって大袈裟な。」


「篠さんは何より思いやりの溢れる人で、信頼関係を築くのが上手だった。あんな出来る人の後任は重荷で断ろうかとも思った。」

篠さんのお陰で今、二郎は有意義な環境でいられている。
二郎は役者として大成していない、しかし充実していて何より努力し才能を伸ばしている。


「篠さんは、二郎の体調管理まで気を配っててしっかり休暇も取ってたから助かった。」


「なんだっけ……規模の小さい公演だったんだけど、そこで初めて木下君を見たんだ。勿論、篠さんに薦められてね。
端役だったけど、二郎君の可能性を広げてやりたいって思えたいい芝居だった。」

その公演なら覚えている。マロージャー、そんな前から知っていたのか。


「どこにも合う歯車を持ってるんだって、二郎のことを知り合いの役者が言ってた。だからすぐに染まるし、何より舞台では違うものに映るんだってさ。」

某役者の高遠は才能もあったが小さい頃から努力して培ってきた経験で演技していて、二郎みたいなタイプが羨ましいと言っていた。

俺も二郎がこんなに凄いとは思わなかったし。


「篠さんが亡くなって木下君の才能が潰れるようなことがあってはならない、これは自分に与えられた使命のような気がした。
君達には当然厳しいだろうし、疎ましくも思うだろう。こちらも本気だ、お互いが最良の環境を維持するために理解し合う努力はしたい。」

マロージャーなのに感動しちまった。


「なんだよ、二郎のこと大好きじゃないかよ!」

同志だな。


「そういう恋愛感情ではなくだな、こっちは既婚して妻も居る!」

急に挙動不審になるとは、ちょっと二郎に魅了されてたな……。


「言っとくけど二郎にどきどきするのは仕方ないことだから、二郎は気になるとずっと頭から離れなくなるし。
……でも、安心しなよ、そんな二郎を夢中にさせ続けてるのはこの俺様だから。俺がマロージャーの分まで二郎を愛でといてやる。」


「めでたいな……。」

褒めたのか?


「俺って言葉にして実行するタイプだから。」

ああ〜、とわざとらしくマロージャーが頷いた。

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