《MUMEI》

.

わたしはそれに答えず、ふと、視線を巡らせる。


たくさんのひとがいる、

その、一番奥に、ステージがあった。


人混みで、視界が悪い、その中に、


一瞬だけ、廉の笑顔が垣間見える。



けれど、

彼のキラキラした瞳が、わたしの姿を捉えることはなかった。



………こんなに近くにいるのに、

今、笑顔を振り撒く廉は、

とても遠くにいるように感じる。



それは、

彼が、『特別な立場』の人間だからなのか。

それとも、

お互いの『世界が違う』せいなのか。


そんなことを考えて、

きっと、その両方なのだ、と思い至る。



わたしはステージから顔を背けて、

『LE FOU』に夢中になっている、たくさんのひとたちの背中を押しやり、


ただ、前に進んだ。





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