《MUMEI》 . わたしはそれに答えず、ふと、視線を巡らせる。 たくさんのひとがいる、 その、一番奥に、ステージがあった。 人混みで、視界が悪い、その中に、 一瞬だけ、廉の笑顔が垣間見える。 けれど、 彼のキラキラした瞳が、わたしの姿を捉えることはなかった。 ………こんなに近くにいるのに、 今、笑顔を振り撒く廉は、 とても遠くにいるように感じる。 それは、 彼が、『特別な立場』の人間だからなのか。 それとも、 お互いの『世界が違う』せいなのか。 そんなことを考えて、 きっと、その両方なのだ、と思い至る。 わたしはステージから顔を背けて、 『LE FOU』に夢中になっている、たくさんのひとたちの背中を押しやり、 ただ、前に進んだ。 ****** 前へ |次へ |
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