《MUMEI》
『あのひと』
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やっとのことで、ライブ会場をくぐり抜けた頃には、

ひどい疲労感に襲われて、わたしはぐったりとしていた。


傍にいた仲元くんが、わたしの顔を心配そうに覗き込む。


「大丈夫??」


顔色、悪いよ、と言った彼の顔を見上げ、

わたしは気丈に笑って見せた。


「へーき。ちょっと、人混みに酔っただけ」


簡単に答えると、仲元くんは少しホッとしたような顔をした。

それから、後ろの方を振り返る。わたしも、それを目で追った。


「それにしても、すごかったなぁ…」


ぼんやりと呟いた、彼の視線の先には、

ゲリラライブのひとだかりが、ちょこんと見えた。

ずいぶん離れた場所へ来たので、今は騒音も小さく聞こえてくる程度だ。


なんとなく、ホッとする。


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