《MUMEI》

乱されていく呼吸を懸命に整えながら
それでもまだ悪態を吐く
拒絶に重なる更なる拒絶に
畑中の内に、何か黒く嫌な感情が燻り始める
拒みたいというならそうさせていればいい、関わらなければいい
そう思うのに
だが何故かそう割り切れない自分が居る事に腹が立った
「離せ!離せってば!」
益々暴れ始める小林
振り回される両手を、畑中はその手首掴みあげ壁へと拘束していた
「な、何する……」
「わざわざ口に出して言わないと分からないか?」
喉の奥で嘲笑ってやると、畑中はその身体を突然に肩の上へ
そして何を考えているのか、一階の店へと降りていった
一体、何をするつもりかと訝しむばかりの小林
だが畑中は何を語ってやることもせず、店内にある服の物色を始めた
「これか」
大量にある服の中から一着を取って出すと
畑中はそのままに二階にある寝室へ
何のつもりかを喚く小林を完璧に無視し
畑中の手がその着衣を脱がせようと伸びる
「……テ、テメェ。何する――」
抗議する声も聞き入れる事はせず
小林の着衣を剥ぎシャツ一枚にすると
畑中は持っていた別の衣服を小林へと宛がった
「……よく、似合ってるな。見てみるか?」
低い声色で小林の手を引くと
部屋の隅にある姿見の処へと向かう
「何、すんだよ。離せ!」
「少し黙れ」
低い声色で制してやると
畑中は唐突に小林の顎を手で掴み上げ
自らへと上向かせると唇を重ねていた
「!?」
当然驚き、目を見開く小林
何をされているのかが瞬間理解出来ず
暫く経ってから、畑中の背を強く殴る事を始める
「こんな格好、嫌だ……!」
漸く唇が離れ、まっ先の訴え
子供の様にかぶりをふり、何度も嫌を訴えてきた
「……似合ってるのに。ほら」
嫌がる小林に無理矢理前を向かせ
今、小林自身がどういう姿をしているのかを見せつけてやる
「……こ、こんな、の――」
鏡の中に見える小林が身に纏っているのは純白のワンピースで
細い身体のラインが顕にされ、その印象はひどく儚気だ
「嫌、か?和泉」
「嫌、だ。退けよ、離せ」
「お前、此処に住むつもりなんだろ?こんな怯えてたんじゃこの先やっていけるか?」
「だ、誰がこんな処……!」
住まうつもりなど毛頭ないないのだ、と続くはずだった先の言葉
だがそれは突然に重ねられた畑中の唇によってその意味を失ってしまった音として口から洩れる
「……なら、さっさと出てけ。邪魔だ」
長いソレから漸く解放してやり
甘く囁いてやっていた声とは変わって冷めた声色
呆けている小林の身体を押しやり、出て行く様に促していた
「……テメェなんか、死んじまえ!」
漸く我に帰った小林が畑中へと罵声を浴びせ
逃げる様にその場を後にした
その後を、だが畑中は追い掛ける事はせず
手荒く閉じられ、その反動で中途半端にまた開いてしまっている戸を眺め見ていた
「戸、壊しやがったな。あのクソガキ」
見れば蝶番が見事に外れていて
傾いてしまった戸を取り敢えず直すと、手近にあった椅子へと座り込む
確実に、苛立っていた。その子供に
かかわる事をしなければ感じることもないというのに
向けられる反抗的な視線に、畑中の内で加虐心がふつふつと沸いて出る
「らしくないな」
自分らしくない感情に苦笑し
放っておけばいい、と畑中はやはり探しに出る事はしなかった
何より優先すべきは自分の日常だと
また服を着替え、畑中は店へ
「あら、高見。いらっしゃい」
来客を告げるベルの音が丁度なり、とが開く
来たのは古くからの知人で
その相手には珍しく、可愛らしい少女を連れ立っていた
「あら、綺麗な子。ちょっと高見、この子どうしたの?」
興味本位で問うてみれば
相手・高見は自身の事にも関わらず興味なさげな顔をしてみせ
「色々あってな。それでだ、コイツに着せる服、何かないか?」
カウンターを指先で小突いてくる
急かす様なソレに
畑中は高見の傍らの少女へと知らり眼を向けると
大量にある服の中から数着、選んで出してやった
それで満足したのか、高見達はその全てを購入すると店を後に
その背を見送った畑中は暫くそのまま
カウンターに凭れ、何となしに外を眺め見ていた
「……雨、か」

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