《MUMEI》 フレンドウェルカが客を殴ったり、リアシッラが恋心に気付いたりしたが、ふたりの関係はあまり変化がなかった。 リアシッラは代表取締役で、ウェルカはその護衛。 最近になって、使いを任されるようになった。ウェルカにとって、ビルのひしめき合うこの街は狭い。その駿足を買われたのだ。 書類を取引先へ届けた帰路。 ウェルカは廃ビル横の路地で、足を止めた。 同業者の気配。 残像を視界の端に捉えたが、認識することはできなかった。軍兵としての腕がなまったかと見渡していると、 「あなた、軍人?」 ひょいと目の前の大通りから、男が入ってきた。 前を大きく開いたジャケットの衿を立て、こてこてのシルバーアクセに、ねずみの尻尾のような長い赤毛。 大道芸人か。 ウェルカは思った。 「いい服着てんのね。潜入捜査?」 ずいと間を詰められる。 話し方こそ女のようだが、体格がいい。力と速さを均等に操るのだろう。細いウェルカにとって、この型の軍人は苦手であった。 「そんな怖がんないでよ。同業でしょ?あたしは天宮。ほら登録証」 ぽいと投げて寄越す。 「あまみや…」 登録番号の頭が04-、ウェルカの2期上にあたる。 「安心した?」 「…俺は軍人じゃない」 「あら」 「辞めた」 「ああ、それで。動きは良いのに娑婆くさいって思ったのよね。この街にいるの?」 頷いておく。 「私もよ。長期の仕事があってね。ここら辺走り回ってるから、どこかで会うかもね。ぶつからないようにしましょ」 上品に笑って、その男、天宮ははすいっと身を引いた。 「またね」 その広い背を見て、ウェルカは、軍本部に置いてきた相方を思い出していた。 前へ |次へ |
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