《MUMEI》
ウェディング1
ルルルルル。

社長室デスクの固定電話がなった。リアシッラは不在。

「ウェルカ、出て頂戴」

ミンクの声で、ウェルカは天井裏からするりと飛び降りた。
本社内の隠れ通路を把握すべく、埃まみれになりながら潜っていたのだ。

「はい、ベルカコーポレーション社長室でございます」

言い付けられた通りの文句で応答した。

「誰かね?」
「秘書室のウェルカと申します」
「おぉ、君か!」

社長室デスクの直通電話を使い、更に一秘書の名を知っているとは、何者か。リアシッラの友人にしては年のいった声である。

それとも、取引先を殴ったことで、自分は有名になってしまったのか。
ウェルカは少し青ざめた。

「ミンクから聞いているよ」
「私のことをですか」
「そう。申し遅れたね、僕はアーサー・ベルカ」
「はい?」

「リアシッラの父だよ」

驚愕した。

「我が愛息子はいるかね?」
「い、いえ」
「今どこに?」
「わかりません。プライベートとおっしゃってましたので、私も」
「ふむ。逃げられたな」

苦笑いが聞こえた。

「僕もね、板挟みで困っているのだよ。先方がそれはもう乗り気でね」
「は…」

「そうだウェルカ君、来週の水曜さ、あの子を連れて来てくれないか。詳細は封書で届けさせるから。無理なら、まぁいいさ」

「何があるのですか」

「何って、見合いだよ」

ウェルカは受話器を持ったまま立ちすくみ、仰天して、愕然とした。

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