《MUMEI》 ウェディング2「ただいまー」 どうすべきか結論を出せぬまま時間ばかりが過ぎ、リアシッラの間延びした声で我にかえった。 「あらま!」 先に迎えに出たミンクが、小さな叫びを上げる。 駆け付けて、血が下がった。 リアシッラの左頬が真っ赤。 「な、何が!?」 「大丈夫。よくあるんだ」 事もなげに返される。 「少し冷やしましょうか」 ミンクが下がった。 リアシッラはどさりとソファに沈む。ウェルカが不安丸出しで覗き込むと、 「もう痛まないよ」 「どうされたんですか」 聞かずにいれなかった。 「今日、朝から出掛けたろ」 「はい」 「西区に友人がいてね。取引先の紹介で出会ったお嬢さんなんだけど、さっぱりしてて気が合ったんだ」 見合いの次は友人。 情けないことに、そのショックは大きかった。 ベルカ社に雇われてふた月。 初めの頃、リアシッラは仕事に追われて休みがなかった。それを心配などしたものだが、いざひと区切りつくと、彼はひょいひょい出掛け始め、その顔の広さに驚かされるようになった。 専属護衛という立場に優越すら感じていたが、リアシッラにしてみれば、あくまで仕事上の部下なのだ。プライベートは連れ歩かない。側にいる時間は格段に減り、ウェルカは、己の至らなさを痛感していた。 「寛いでたんだよ。そしたらいきなり、先日他の女性といるのを見た、あれは誰だって言うんだ」 手招きされ、リアシッラの隣に腰を下ろす。 「何をどう履き違えたか、恋人気取りなんだよ。呆れたね。それで、そんなつもりはないし、勘違いは困ると伝えたら、この様だ」 「ではこれは、」 「女性の平手打ちは凄まじい」 ウェルカは言葉を失った。 「居心地良かったんだけどな。嫁に貰えなんて事態は御免だ。もう会うのは止めるよ」 悔しがり涙する女性の姿が目に浮かんだ。 薄々感じていたことがある。 リアシッラは、情に厚いようでいて、まるで素麺のようにつるりと流すのだ。 人の恋心を。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |