《MUMEI》
ウェディング3
「変な顔をしてるね」

はっとした。

「苦い紅茶を出されて、無理矢理おいしいですって言ってるみたい」

ソファで頬杖をつくリアシッラは、ウェルカにとって、それだけで絵画だった。
とても直視できない。

「…ウェルカにも、悩みごとのひとつやふたつあるだろ」

ぽつりとリアシッラが零した。
どこか遠くを見ている。

「誰も何も知らないこの街で、休日も社内にいるみたいだし。そもそも休日あげてたっけ?」

「週に一度いただいています」
たいてい屋根裏散策をしている。つまり勤務中とあまり変わらない。

「ストレス発散してる?」
「ストレス?」
「ないのか」
「自分で選んだ仕事です」
「幻滅することは?」
「ありません」
「後悔したり」
「いいえ」

「すごいな。情熱的。何かに打ち込めるのは幸せなことだ」
リアシッラの顔が、ぱっと華やいだ。

「僕も頑張ろう。やる気がわいた。冬の新作イベントの草案が上がってるんだ。これさ」

企画書を広げ、プロジェクターを下ろし、少年のようにはしゃいでいる。ウェルカは、心がほかほかと温まるのを感じた。

リアシッラにとって軍兵が物珍しいように、ウェルカにとってサービス業は未知である。

ベルカワールド、アトラクション、イベント、プログラム、エンターテイメント、全てが新鮮で華やかだった。
そう伝えると、リアシッラは喜んだ。

「僕の情熱はこれなんだ」

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