《MUMEI》 おあいこ. 姉は、実家に泊まることなく、その日のうちに東京に戻った。 理由は、『次の日仕事だから』、ということだった。 別に、ここから出勤してもいいじゃない、と母さんが、半ば駄々をこねるように引き止めたのだが、姉は苦笑するだけで取り合わず、さっさと家を出て行った。 きっと、まだ、ヒロトさんへの想いが、整理出来ていないのだろう。 対して俺は、 昌美と会うことも、 拓也と遊ぶこともせず、 ダラダラと、家で週末を過ごし、 −−−休み明け、大学へ行った。 講義室に入ると、まず、若菜が声をかけてきた。 「おはよう」 ぎこちない笑顔を浮かべ、彼女は挨拶をしてくる。 この前の飲み会を途中でホカして帰ったまま、なんのフォローもしなかったから、きっと気まずく思っているのだろう。 俺は若菜の顔を見つめ、軽く会釈をするだけで返した。 若菜は言葉を探すように視線を泳がせて、あの…と続ける。 「金曜は、いろいろゴメンなさい…なんか、あんなことになっちゃうなんて、思ってなくて」 消え入りそうな声で謝ってきた若菜に、俺は素っ気なく、別に、と答える。 「寺嶋さんは、悪くないじゃん。謝ることないよ」 「でも、誘ったの、わたしだし…」 「それは関係ナイでしょ」 俺の言い方が冷たく聞こえたのか、若菜はそれきり黙り込む。 . 前へ |次へ |
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