《MUMEI》
故郷
九州の田舎町。
温暖な気候と、透き通った穏やかな海。
小さな漁師町で、工藤拓海《たくみ》は、生まれた。たくみの母は、たくみを産むとすぐに、この世をさっていた。
たくみには、全く母の記憶がない。
ただ周りの人からは、「あなたのお母さんは、とても優しく、綺麗な人だったよ!」と聞かされていたために、たくみの中で、綺麗で透き通った、まるで目の前に広がる、穏やかな海のような、母親像がつくられていた。
たくみには、血のつながった人と言えば、唯一父親だけがいた。
しかし、その父親は、あまりに母親を愛しすぎていたために、母の死とともに、精神が崩壊してしまっていた。
毎日毎日、酒におぼれる日々。
たくみのことなど、まったく頭の中にはなく、世話どころか、会話さえない毎日。
たくみには、頼れる人間は誰もいなかった。
幼い彼には、大きく包んでくれるものが、必要だった。
ある時、いつものように、酒におぼれた父が、突然「お前さえ、お前さえ、産まれてこなければ」
「お前が、死ねばよかったんだ」と、たくみに、浴びせた。
母親は、体が弱く、たくみを産むかわりに、命をなくしたのだった。
まだ、幼いタクミには、あまりに突然で、心の奥深くで何かが、崩壊していくのをかんじた。
タクミは、その日を境に、人に対して完全に心を閉ざしてしまった。
タクミの町では、風土のせいもあり、同じ歳くらいの子供たちは、とても元気に明るく、育っていた。
タクミは、その中に溶け込む事が、できず、いつも一人だった。
タクミの中にも、熱い気持ち、さまざまな感情はある。
しかし、それをどこかで、抑制し、うまく表にだすことが、できないでいた。
そうゆうタクミは、元気すぎる子供たちに、格好の標的だった。
ましてや、この家庭環境からも・・・・・。    タクミは、自分の気持ちをうまく表現できなくいた。そのためいつも喧嘩になる。
本当は、仲良くしたいのに、本当は、優しくしたいのに、誰かそばにほしいのに・・・・。
タクミの中に眠る感情は、喧嘩によってでしか表現できなくなっていた。   喧嘩した夜は、必ず浜辺にむかった。
ただただ、横たわり、過ごした。
波の音。
体にふく、優しい風。
まるで、あった事もない、母の胸の中に抱かれてるように、心がやすらいだ。
唯一やすらげる場所だった。

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