《MUMEI》

車の横を女がゆっくり通り過ぎる。
その瞬間、女はかすかに眉を寄せた。
すでに臭いが外に漏れてしまっているのだろうか。
もし女がこちらに気づけば殺してしまわなければならないだろう。
ユウゴは手に力を入れたが、女はそのまま行ってしまった。
ホッとしながらユウゴはその後ろ姿を見送った。
女の姿が見えなくなってから、ユウゴは周りに誰もいないことを確認して窓を少し開けた。
それを見たケンイチが力いっぱいスイッチを押す。
後部座席の窓が一気に開いていくのに気づいたユウゴは慌てて運転席へと手を伸ばし、後部座席の窓を閉めた。
「なにすんだよ!」
ケンイチがカチカチとスイッチを連打しながら抗議してくる。
「それはこっちのセリフだ。窓全開にしたら、その死体まで丸見えだろうが」
「だって臭いんだから、しょうがねえだろ」
「これくらい我慢しろ。織田が戻ったら、まずそいつを処理するから」
「今、我慢できねえんだよ!」
ユウゴたちが騒いでいると織田が戻ってきた。
彼は無言でドアを開けたが、すぐにその表情を歪めた。
「これはひどいな」
織田は乗り込み、ドアを閉めながら言う。
いつもは無表情な彼がここまで顔をしかめるのは珍しい。
三人は満場一致でまず死体を捨てることにした。

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