《MUMEI》
青年
しかし、毎日ただ、時間だけが、虚しく過ぎていった。
いつしか、タクミも青年になっていた。
次第にいつも見る海の向こうに、憧れを抱くようになっていった。
まだ見ぬ世界。都会へ。東京へ。
何かを求め、探しに。
自分の居場所を。
まもなく、高校を卒業するタクミは、決断した。
「卒業したら、町をでよう!」と。
それからの日々は、東京への期待と不安で、ゆれながらすごしていた。
そして・・・。
とうとう卒業の日がきた。前日の夜、ボストンバックに、衣類をつめこんだ。
そして、会った事のない、母の写真一枚だけいれて。そのまま、家を出て、母の海へとむかった。
この町に、少しの未練もなかった。
しかし、唯一この海と別れるさみしさだけがあった。その夜は、ただただ母の海の胸の中で、静かにねむった。
朝。
タクミは、学校へとむかう。
友達なんて一人もいない。周りは、みんな思い出と、悲しみに浸っていた。
全員、講堂に集まり式の時間が、無機質にながれていく。一人一人名前が呼ばれ、卒業証書が手渡される。タクミにとっては、ただの紙切れ。
式が終わり、それぞれの思い出と、悲しみにひたりながら教室に向かう流れのなかを、タクミだけが、流れと逆に歩き始めた。
校門の前まできて、立ち止まり、今もらったばかりの卒業証書を、粉々に破いた。
そして、それを空に向かって力一杯に投げ付けた。
粉々になった、紙切れは、風にのり、あたかも、タクミより先に東京へ向かうように、飛んでいった。
タクミは、一つ大きく深呼吸をした。
「よし!」と声をだし、校門の脇に隠してあったボストンバックを手に取り、走りだした。
海沿いの駅へ向かう道。
潮風をいっぱいに、受けながら、走った。
自由を手に入れた感じがした。
駅へと着いたタクミは、到着したばかりの、汽車に乗り込み、窓際の席に腰をおろした。
お金のないタクミは、鈍行に乗り、手には、東京行きの片道切符。
見慣れた風景が、流れていく。
未練は、ない。
しかし、涙が流れた。
だんだん、知らない景色がながれていく。
期待と不安からか、タクミは、眠りに落ちた。
泥のようにねむった。
どれだけ経ったのだろうか?
タクミは、肩を揺すられ起こされた。
眠い目をこすり、ふっと窓の外に目をやると、そこには、圧倒するような、無機質なビル達が、灰色の景色の中にいた。
東京。
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