《MUMEI》

「初めまして、木下二郎です。」

憎い敵に笑顔で迎えられ動揺している。


「はい……。」

一先ず握手で、無難な始まりだ。

年始の仕事の後に、高遠の姉が立ち上げたブランドの撮影に立ち会えた。
俺も初めて仕事中の二郎を見る……舞台やテレビとかの完成されたものとは違いまた違った緊張感が。

暫くマロージャーと嫁さんと三人、撮影する現場機材とかのセッティングを見たりした。
高そうな機材や現場のスタッフが説明してくれたり、和やかな雰囲気だ。


「すみません、撮影始まるから隅で……あ、隅だけにね?」

スタッフのサブ〜い親父ギャグがツボに入りつつ、指定されたとこまで掃ける。





一瞬、誰だかわからなかった。
メイクや服のせいか、いつも穴が開くまで見ていた二郎とは別人だ。

さっきまでの雰囲気とは変わり、静けさが在りながら妙に穏やかな空気になった。
何気ない動きさえも計算されているように映る。

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