《MUMEI》
出会い
そして、喧嘩と酒にあけくれる時間だけが過ぎていく。
酒にに酔い、歌舞伎町をはらつきながら歩いていると、風俗の呼び込みに声をかけられた。
タクミは、誘われるままに、店へと入り、個室へと案内された。
薄明かりの狭い部屋のなかに、ただ一つあるベッド。そのベッドに横たわっていると、女が入ってきた。
タクミは、誘われるがままはいったが、風俗は初めてだった。
何をどうしたら、いいかわからずにいると、女は、部屋と格好に似付かわしくない、無垢な笑顔でわらい、「里菜」ですと名をつげた。
《佐藤里菜であった》。
どきどきしている、タクミを少しかわいく、おかしく感じた。
しかし、里菜は、マニュアルとおりの言葉をかけ、仕事を機械的にこなそうとした。
タクミに触れようとした時、タクミはそれを制した。タクミにとって、東京に来て初めて人の体温を感じ、初めて普通な人と向き合った。
里菜は、そのタクミの行動に少しとまどったが、再び触れようとした。
すると、タクミはまた、制した。
「いいんだ、何もしなくて!」 そして、二人はベッドに並んで座った。
里菜は、戸惑った。
不思議に思った。
しかし、何故かタクミの事が気になった。
二人の間に、無言のまま、わずかな時間が流れていった。
しばらくしてタクミが、ゆっくり口を開いた。
自分の故郷、海、母、幼少時代。
そして、今の孤独。
里菜は、横で、ただじっと座り聞いてくれていた。
東京に来て、初めてちゃんと、人に話したかもしれない。
何故か、タクミは初めて会った人にもかかわらず、しかもこんな場所で、真っ白な心で話せた。
話相手が、ほしかったのだろうか?
いや、そうではない!
何故か、初めて会った人なのに、里菜という女にやすらぎを感じていた。
それは、里菜もタクミに感じていた。
二人の間に、ゆっくりとした、心地よい時間がながれていた。
その時、二人の時間を裂くかのように、部屋にベルの音が、響いた。
時間がきたのだ。
二人が、現実に引き戻され、里菜が終わりが来た事をつげると、タクミは、話しすぎた自分が、急に恥ずかしくなり、部屋を飛び出した。
そして、夜の新宿へ。
一人街の中を歩きながら、何故か、何とも言えない、安堵感にタクミは包まれていた。
そのころ、里菜も、一人部屋で同じような気持ちに包まれていた。
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