《MUMEI》 俺は自転車から降りて、女と向き合った。 「昔の俺は、お前と仲良かったのか?」 その途端、女の目が見開いた。 睫毛(マツゲ)を少しも揺らさず、 俺を見つめている。 「確かに昔はよく遊んでいたけど……。 それ、本気で言ってるの?」 そこで初めて、女の睫毛が不安げに揺れた。 「俺、昔の記憶消したんだ。」 「嘘…だって、蓮翔のこと覚えてたじゃない。」 「ああ……アイツと賢ちゃんなら覚えていた。」 「いた?」 「今は関係ない。」 「そんな……。」 「もういいだろ。 こんなことに時間を使いたくない。」 「りゅう…ま……。」 「だから俺の名前を気安く呼ぶな。」 再度女に背を向け、自転車に跨がろうとした。 ん? 俺どうしたんだ。 腕が勝手に動く。 内心動揺する俺とは裏腹に、 俺の右手は自然と女の頭の上に乗っていた。 「…!?」 女は驚いた表情で俺を見上げる。 「じゃ……。」 俺は必死に動揺する気持ちを押し殺して、 今度こそ女に背を向けた。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |