《MUMEI》

「もう来るな。」


そう冷たく言い放つと、
自転車に跨がり競技場へと急いだ。


別に集合時間にはまだ余裕があった。


急ぐ必要は無かったのに。


いつもよりも自転車を速く進める自分がいる。


あの時女に触れたことに、
正直驚いた。


しかも慣れた行動のように、
自然と触れていた……。


今でも触れた右手が熱い。


これが何なのか分からなかった。


だから余計に苦しい。


俺はこの気持ちをなぎ払いたい一心で、
ペダルを漕ぐ足に力を入れていた。

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