《MUMEI》 服を着ているのでは無く、その服そのものが生き物で、カメラはそれを記録しているようだ。 肌は服の色に溶けそう。 数人と二郎の撮影だったが、その蠱惑な瞳に引き寄せられて、中心には自然と二郎が居る。 撮影はあっという間に終わった。 「やっぱり貴方に着てもらえて良かったわ。」 長身の女性が二郎に握手を求めてきた。長い髪を綺麗に結わえて、フォーマルな服装だ。 「こちらこそ光栄です。」 二郎の怖いくらいの色気にたじろぐこともしない、中々の女性だ。 「あの人がGLASS LIPSのNATSUMEさんだ……」 つまり、今日の二郎の着ている服の最高責任者だとマロージャーは言っている。 雑誌やメディアで見たことある、そして高遠光の腹違いの姉……という極秘情報も知ってる。 広告塔としては高遠光を使っているが、雑誌には二郎を起用してくれてた。 「貴方は二郎君の御友人ね?はじめまして。花柳棗です。」 花柳棗……近くで見ると名前通りにかっちょいい、スラリとした美人だ。 ちょっとケバいが。 「内館七生です、こちらこそ二郎がお世話になってます。」 こういう堅苦しいの嫌だ。 「ふふ、無理しないでいいのよ。」 子供扱いされた。 「棗さん、無理言ってすみません……。」 マロージャーが頭を下げた。 「いいのよ、木下君の知り合いは絶対可愛いと確信していたし。予想以上だったわね……。二郎君はどうだった?」 「あ、はい。最高でした。」 感想を素直に言ったら二郎にそっぽ向かれた。 「彼ね、勘がいいのよ。すぐカメラの前で何を求められているか掴めるのよね、今日も早く終わったわ。」 さっきまでの雰囲気を思い出して納得した。 「そこのふて腐れてたお嬢様も、だんだん口元が緩んでたものね?」 ふて腐れてたのはマロージャーの嫁のことだろう。 「緩んでないもん……」 頬を風船のように膨らましている。 「素晴らしいものは素晴らしいと言わないと、きっと後悔するわよ。」 ごもっともだ。 「四回目だけど緊張した……今回のGLASS LIPSの春にはオリエンタルな艶やかさがあって、俺なんかが着ていいのだろうかと……。」 淡い若草色をこんなにも着こなせる人間が何を言っている。 「どうして、自信が無いのにカメラを見るの?」 嫁が二郎に問う。 「自信とかじゃなくて……GLASS LIPSの雰囲気が全然違うから、俺が着ることでちゃんと伝え切れなかったら申し訳無いかなと………………そうですね、自分に自信が無いのかもしれません。」 二郎が認めた。 「本当は自分が臆病だというのもわかっているのでしょう。……狡いわ愛されてるくせに。」 嫁はん……、二郎のこと実は見直していたのか? 前へ |次へ |
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