《MUMEI》 . 隙間からじっと、窓の外の暗闇を覗き見ると、 わたしの家の門の前に、 タクシーが一台、ハザードランプを点灯させて停まっていた。暗くてよく見えないが、後部座席にひとがひとり、座っているようだ。 ………ウソ。 呆然とするわたしの耳に、 受話器から、廉の声が流れてくる。 『…だれが覗けって言った。ヘンタイ』 おそらく廉の方からわたしの姿が見えたのだろう。 わたしはギクリと肩を揺らして、慌ててカーテンをきっちり閉めた。 わたしの様子を不審に思ったお母さんが、どうしたの?と、呑気に尋ねてくる。しかし、それどころじゃない。 『今、家の前に、 お茶の間で人気の、アイドルがいるんです』 …なんて言ったって、信じてくれないだろうし。 . 前へ |次へ |
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