《MUMEI》

俺は意地の悪い笑みを浮かべて、王士が明言しない部分を代わりに言った。

 「たとえば……ジャマな恋敵を?」
 「――――!!」

 心を見透かしたような俺のセリフに、王士は明らかに反応を示した。
 相変わらず、嘘のつけない性分だ。

 「……流が小4の時だったかな」

 俺は昔の流の、ある出来事について、思い出しながら語った。
 「その時の担任が、いわゆるハイミスでな」
 「ハイミス?」

 おっと、王士の世代だと聞いたことがない言葉だったか。

 「結婚せずに、ある一定の年齢を過ぎた女のことさ」

 俺は簡単に補足して、話を続ける。

 「出来の悪い生徒を理不尽にいびる、ヒステリックな女でな。流もよく苛められたもんだが、それを悪様に言ったことは一度もなかった。だが、他の子が同じ目にあっているのを見た時……」

 俺はその先を言わなかった。
 むしろ、言う必要がなかった。
 俺も王士も、よく分かっていることだから。
 もちろん……流が殺人鬼となって、担任を殺したのだ。
 王士はかすかに目を見開いた。
 分かっていたとはいえ、その場面を想像したのだろう。
 あえて見ないふりをして、続ける。

 「流は私利私欲で人を殺したりしない。状況に反応しているわけでもない。人を嫌だと思う流の殺意は、虐げられたモノの苦痛に感応して生まれているんだ」

 そういった意味では、流は天罰などではなく、無意識の復讐を執行していると言える。
 ……まったくバカバカしい。
 なんだってその役が、俺の妹なんだ?
 なんだって流なんだ?
 何のジョークだ?
 ジョークにしても、意地が悪すぎる。

 「第一、普段の流は俺やおまえなんかより、ずっと人間が好きだろ?」
 「……そうだったな」

 王士の顔が一瞬、和む。
 その表情を見て、俺は以前から考えていたことを実行に移すことにした。
 俺は必要以上に冗談めかして言う。

 「――とはいえ、おまえは別格だからなぁ」
 「オイ!?」
 「あんまり妬かすとヤバイかもよ」

 とたんに王士が血相を変える。
 よほど動揺したのか、それまで座っていた椅子から立ち上がった。
 その慌て振りを冷徹に見ながら、俺は言葉を紡ぐ。

 「好きだって言ってやりゃいいじゃん」
 「あ?」
 「王士がハッキリしないから、流が不安定になるんだろ? ――実際、おまえ、流をどう思ってるんだ?」

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫