《MUMEI》 ラブレター見合いをすっぽかした次の日。 ミンクがウェルカを呼んだ。 「ラブレターよ」 「誰から?」 先に反応したのは、執務中のリアシッラ。 「私にですか」 ウェルカがすいっと現れ、受け取った。上質紙の封筒に、ハートのワンポイント。これではラブレターとしか言いようがない。 差出人は、 「天宮…」 「誰?」 リアシッラが再度尋ねた。 「知人です」 そりゃそうだと思ったが、それ以上の表現が思い付かなかった。 捜査で長期滞在していると言っていた。正体を伏せ、仮の生活をしている可能性がある。変に情報をもらし、邪魔をしたくはなかった。 「先日、ばったり会ったんです。この街で暮らしてるそうで」 「へぇ、ばったり」 居所を調べ、わざわざ手間のかかる手紙を送ってくるくらいだから、暇なのだろう。話し相手くらいはと思い、封を切った。 かわいらしい花柄のカードには、連絡先を示す暗号と、手書きで一言。 <ピロートークしましょ> 持つ手が固まった。 「何て?」 「時間があれば、積もる話しでもと」 だいぶオブラートな意訳。 「あら、いいじゃない」 とミンク。 「相手の方はお忙しいの?ゆっくり会ってらっしゃいな」 暗号でも何でもない。それそのままの意味だ。 退役して数カ月。あまりの直球に一瞬頭が白くなったが、その軍人独特の軽さが懐かしかった。 「…そうですね。では、お言葉に甘えて」 丁寧に便箋を懐へしまうウェルカを、書類に囲まれたリアシッラがじっと見つめていた。 前へ |次へ |
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