《MUMEI》 オフ4「おはよーう」 出社すると、ミンクがひとり。温かい紅茶をいれてくれる。いつも通りの光景であったが、物足りない。 「ウェルカは?」 「お休みですよ」 顔も上げず、ミンクが答えた。 「もう若様。ウェルカには5日連休を出したと伝えたでしょう。まだ3日目です」 「そうだっけ」 「スケジュールにウェルカの出社日を書き込んだらいかがです」 「それがいいな」 リアシッラは大人しく従った。 卓上のカレンダーを引き寄せ、愛用の万年筆で、一昨日から明後日の枠に印を入れる。 「何してるのかな」 ぽつりと漏らした調度その時、社長室の電話が鳴った。こんな朝方に直通電話など、心当たりはない。 「ウェルカかもしれませんよ」 そう言うので、リアシッラがとった。 「ベルカコーポレーション社長室でございます」 「あらほんと、繋がった」 「はい?」 「失礼致しました。わたくし、天宮と申します。西区でデザイン事務所をやっております」 低めの男の声。 その名に聞き覚えがあった。 「ラブレターの差出人」 思わず口に出すと、ミンクがこちらを見た。 「そうですわ」 「どんな御用でしょう」 何となく気に食わなかったので、不躾に尋ねてみた。 「欠勤連絡を」 「欠勤?」 「昨晩はしゃぎすぎてしまって。ウェルカ、まだ目を覚まさないんですの。今日はお休みを頂けません?」 卓上スケジュールを見た。 明後日までウェルカは連休。 「…わかりました」 「ありがとうございます。叱らないでやってくださいましね。私が無理をさせてしまったものだから」 「問題ありません」 言い捨てながら、胸中のもやもやを振り払えないリアシッラだった。 前へ |次へ |
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