《MUMEI》
危険な願望
瑠璃花はバスタオルを体に巻く。肩まで届く、やや染めたきれいな髪。スポーティーで健康的な脚。
彼女はすました顔でドアを見つめる。緊張してきた。
「ふう」
深夜や早朝のように、まだ暗くて人がいない時間帯なら大丈夫か。
瑠璃花は危ないことを考えて、胸のドキドキが増していく。
ある国の女子大生は、大学の食堂にバスタオル一枚で現れ話題になった。
パジャマはダメでバスタオルはOKというのも面白い。
日本はどうか。裸はもちろん男女ともダメだが、バスタオル一枚はアリか。
瑠璃花は夢から完全に覚めていないのか、とんでもないことを考えている。
男ならたぶん即わいせつ行為。しかし女の子なら「イキで大胆」と思ってくれるだろうか…。
瑠璃花はそんな甘いことを考えていた。
裸足で行けば、たまらないハラハラドキドキが味わえるだろう。しかし裸足で見つかれば、変態だと思われてしまう。
サンダルを履いていれば、今どきの若い子は、はしたないで済む。
瑠璃花の思考が段々とエスカレートしていく。瑠璃花は財布から120円だけ出して手に握ると、玄関でサンダルを履いた。
「ホントに行く気?」
理性的な自分がブレーキをかける。しかし興奮しているときは頭がよく働かない。瑠璃花はドアの内から外を確認すると、ゆっくりドアを開けた。
三階建てのアパートの一階。三階から降りるのは怖いが、一階ならば冒険するのに好都合だ。
瑠璃花は人がいないかを慎重に確かめてから、外に出た。
夏の早朝。ヒンヤリと気持ちいい。瑠璃花は唇を結び、たまらない緊張感に思わずおなかを押さえた。
サンダルの音がしないように、静かに歩いていく。自動販売機はアパートの目の前にある。
彼女はお金を入れて冷たいお茶を買った。缶の転がり落ちる音が静かな街に響く。
いけないことをしている人間は、音に敏感だ。
バイクの走る音。
「あっ…」
瑠璃花のアパートに来る新聞配達だ。
彼女は慌てた。見られたら大変だ。瑠璃花はドアめがけて走った。バイクがアパートの前に来て止まる。瑠璃花はドアを開けた。配達員の若い男性が新聞を持って廊下を走って来る。瑠璃花は部屋の中に入ると急いで鍵をかけ、ドアチェーンをした。
「はあ、はあ、はあ…」
瑠璃花は赤い顔でおなかに手を当てた。
「見られちゃったかな?」
そのままベッドにうつ伏せになると、足をバタバタさせた。
「ああ、怖かったあ!」
ハラハラドキドキが止まらない。瑠璃花は仰向けになり、上体を起こすと、体を張って買ったお茶をひと口飲む。
瑠璃花は思った。裸を見られたいわけではない。緊張感を味わいたいだけ。危ない趣味。だれにも相談できない。
瑠璃花は仰向けになると、天井をながめた。興奮して眠れそうになかった。

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