《MUMEI》

「なあ、早くしてくれよ。俺もう死にそう」
後部座席でケンイチがぐったりしている。
車が走り出してからも窓は少し開けてある。
走りながらならば、多少異臭がしても気づかれにくいはずだ。
しかし、わずかな窓の隙間だけでは空気の入れ換えは追いつかないようだった。
「死ぬんなら、さっさと死んでくれ。おまえが死んでも別に困らない。そいつと一緒に始末してやる」
ユウゴはできるだけ息をしないようにしながら言った。
喋るたびに口の中が苦くなる気がする。
ケンイチも同じなのだろう。
言い返してくる代わりに助手席の背を蹴ってきた。
「なあ、織田。こんな街中のどこに死体なんて捨てるつもりなんだ?」
ユウゴはケンイチを無視して織田を見る。
だが、彼は眉間にしわを寄せたまま答えない。
よく見ると顔色がよくない。
「おい、大丈夫か?」
この強烈な臭いの中で大丈夫なはずもないだろうが、ユウゴは思わず聞いてしまった。
織田は一瞬こちらに視線を向けただけで口を開こうとはしなかった。
おそらく限界が近いのだろう。
それはユウゴも、そしてケンイチも同じである。
車は交通量の多い道を通りすぎ、少し街の中心から離れた場所まで来ていた。
織田は少しスピードを落とし、何かを探すように視線を動かし始めた。

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