《MUMEI》
恋の味
    〜歩視点〜


「あら、美味しそうね」


母親はそう言うと、ひょいパクっと効果音がつきそうなくらい高速でケーキを1口食べた。


「ちょっと歩には、大人の味かもね」


母親はそう言うと、何事もなかったかのように俺の晩ご飯の用意を始めた。


何が起こったのか暫く理解できず、固まっていると母親が晩ご飯を俺の前に運んでくる。


「あら歩、ケーキ食べないの?


食べないなら母さん貰うわよ」


っと残りのケーキに手を出そうとする。



今、起こっていることを瞬時に理解した俺は、慌てて叫ぶ。


「駄目!


っていうか凄い楽しみにしてたのに・・・」


涙目になりながら必死に母親から残りのケーキを守る。


そんな俺を見て


「母さんを無視するから制裁よ」


っと母親はあっけらかんと笑う。


笑っていたかと思うと今度は、しょんぼりと肩を落とす。


「母さんおかえりって言ったのに・・・」


そう言えば、母親の隣をダッシュで通り過ぎたような・・・。


「それは俺が悪かったかもしれないけど


それとこれとは話が別!」


溢れ出さんばかりに涙が目に溜まる。


麗羅チャンが・・・麗羅チャンがせっかくくれて


久しぶりに笑顔間近で見れて



麗羅チャン可愛いかったなぁ・・・


っじゃなくて!


俺は母親をキッと睨みつける。


目には涙が溜まりプルプルしているので、恐怖心の欠片も母親に与えられないのは分かっていたが最大限の威嚇をする。


「全部食べてないんだから、逆に感謝して欲しいくらいだわ」


でも、ごめんねっと母親は俺の頭をぽんぽんと撫でた。


俺はそれ以上何も言えなくなり、残ったケーキを見つめる。


ショコラ生地の中からとろりとチョコレートが流れ出している。


こんなケーキ見たことない!!


麗羅チャン凄いなぁ!


再びいただきますをして、中から出たチョコレートをケーキにつけ口に運ぶ。


ちょっと苦い・・・けど美味しい!


母親が言った通り、麗羅チャンのくれたケーキは大人の味だった。


このケーキの味は、何だか俺の恋みたいだなって思った。


ほろ苦いけど甘い、切ない味。


甘酸っぱくて、ほろ苦い――俺の初恋。

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