《MUMEI》

静まり返る教室。先程までの喧騒が嘘のようだ。不気味な沈黙の中、それをまるで気にした様子もなく歩く者がいた。

白髪の少年、ラス・エグネヴァ。そもそもこの沈黙を生み出した張本人である。

ラスが何事もなかったかのように席に着くと、再び教室内に音が生まれた。但し先程までのような楽しげなものではない。全て彼を罵る声。

やはりラスに気にした様子はない。そんな彼が気に食わなかったのか、数名の男子生徒が彼を囲んだ。

「てめえだろ? 落ちこぼれのラス君は」

ラスはだるそうに首肯する。

「何でこんなトコにいんの? ここは名門ラクレール学園だ。てめえみたいな落ちこぼれがいていい場所じゃないの。分かる?」

ラスは反応しない。男子生徒たちはそれを図星を突かれて何も言えないのだと勘違いする。

「つかさ、どうやって入学したん?」

「あー、だよな。落ちこぼれが入れるトコじゃネェもんな」

「そりゃあいわゆる裏口入学っしょ」

ぎゃはは、と下品に笑う男子生徒たちだが、それでもラスは無反応。更に調子に乗って悪口を続けようとするが、次の発言がいけなかった。

「ホントこれだから落ちこぼれは。『努力する』ってことを知らなくて困るぜ」

瞬間、誰もが己の目を疑う。一人の男子生徒が壁に叩きつけられていた。そして重力に逆らわずにズルズルと床に落ちていく。彼は頭から血を流して、白目をむいて気絶していた。

何が起こったのか。誰も分からない。いや本当は知っている。ただ、認めたくないだけ。

あの"落ちこぼれ"が、只のパンチでこれ程の威力を出したなど。

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