《MUMEI》

「おーっす! 全員揃ってるかー……って、何があったんだよコレは……」

教師と思しき男は、教室に入ってくるなりたじろいでしまう。何せ教室内にはラスの怒気と殺気が満ちている。

だがそのラスは教師の姿を認めるなりそれらを引っ込めた。相変わらず怒ってはいるが。生徒たちは取り敢えず安堵の息を零した。

訳が分からず首を傾げる教師だったが、あるものを見つけた途端顔が強張った。それは頭から血を流して倒れる男子生徒。ラスが殴り飛ばした相手。

慌ててその生徒に駆け寄ると、何やら呟く。すると赤い光が男子生徒を包み込み、傷が癒えていった。

その光景に皆が目を見張る。余程の熟練者しか使えないという火属性の治癒魔法。それが使えるということは、この教師は只者ではない。

「これをやったのは誰だ?」

治癒を終えた教師が振り返って問う。その顔はいやに真剣だ。

「俺だ」

ラスは欠片も躊躇う素振りを見せずに即答する。教師も間髪入れずに話し出した。

「頭だぞ? 打ち所が悪ければ即死だった。なのに少しも悪びれた様子がないってのはどういうことだ」

「悪いことをしたとは思ってねぇからだ」

その答えに、教師は声を荒げた。命を何とも思わないこの発言は、教師として人として許す訳にはいかない。

「ふざけるな! 死んだって構わないってのか!? 一体命を何だと」

「人間は傲慢過ぎんだよ。他の生物は殺しまくってるクセに、人間だけは殺しちゃダメ? バッカじゃねぇの?」

その切り返しに思わず言葉が詰まる。だがラスは止まらない。

「誰でも絶対譲れねぇもんってのがあんだろ。俺はそれを否定された。許せる筈ねぇだろが」

それはそうだ。譲れないもの、己の根幹のようなもの。それを否定されて黙っていられる訳もない。だがだからといって、

「気に入らなかったらすぐ暴力か? そんなのが通用すると思うな!」

遂にラスは押し黙る。しかしそれは言い負かされたからではない。溜めて溜めて爆発させる為。ギリ、と歯が軋む音がした。

「じゃあ言葉の暴力は良いってのか!?」

頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を、教師は感じた。

ああ、そうか。そういえば彼は、いつも言葉の暴力の中に居た。

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