《MUMEI》
二人目の被害者
由美子と同じ健康ランドで働いている、マッサージ師の川野めぐみ。
彼女は大きな倉庫の近くを歩いていた。
友人と飲みに行った帰りで、夜の11時を回っていた。
時間帯が遅いせいか、いつも人がいる道は、静かで寂しかった。めぐみは心配になり早く歩こうと思ったが、酔っているから動きが鈍い。
彼女の真後ろ。ゲリラのように足音を立てず何者かが来るが、めぐみは気づいていない。
「んんん!」
口と鼻をハンカチで塞がれた。短めの黒髪が揺れる。
「ん…」
華奢な体は、呆気なくマスクマンの腕に落ちた。


「んんん…」
目が覚めた。めぐみはまだ頭がぼんやりしている。
「!」
自分の姿を見て目を丸くした。バスタオル一枚ではないか。いっぺんに酔いが醒めた。
ここは、倉庫の中だ。パワーリフトの爪に手首が縛りつけられている。
めぐみは絶望的な表情で辺りを見渡した。
口には猿轡を咬まされているから悲鳴も上げられない。
そこに、ゆっくりとマスクマンが歩いて来た。怖過ぎる。
「んんん、んんん!」
めぐみは激しくもがいた。恐怖のあまり涙がこぼれる。
男は目の前に立つと、耳もとで囁いた。
「心配するな。レイプはしていない」
「……」
「どんな気分だ。バスタオル一枚で倉庫に置き去りにされるのは?」
「んんん、んんん!」めぐみはしきりに首を左右に振った。
「恥をかくのは嫌いか?」
めぐみは何度も頷いた。両手首をリフトの爪に固定されているから、バンザイの形で体をマスクマンに向けている。もしバスタオルを取られたら、そのまますべてを男に晒してしまう。
「んんん!」
「自分が恥をかくのは嫌いなくせに、人に赤っ恥をかかすのは好きだろう?」
「んんん!」
めぐみは激しく否定した。何を言っているのかさっぱりわからない。
「おまえは最近、人に思いっきり恥をかかせただろう?」
めぐみは急にうろたえた。目を見開いてマスクマンを直視する。
「猿轡を外してやろう。悲鳴を上げないと約束できるか?」
「ん」めぐみはしおらしく頷いた。
「もしも悲鳴を上げたら裸にして逃げるぞ」
「んんん!」めぐみはひたすら首を左右に振る。
「しかも素っ裸のままリフトを天井まで上げてやる」
そう言うと男は、リフトをいじった。ウィーンという鈍い音が静かな倉庫に響き、めぐみの両足が浮いた。
「んんん、んんん!」
慌てふためくめぐみを見て、すぐに下ろしてくれた。めぐみは汗びっしょりだ。

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