《MUMEI》
パワーリフトの刑
悔しいけど逆らえない。逆らえば何をされるかわからない。
男はめぐみの猿轡を外した。
「お願いです。ほどいてください」
「そんなにほどいて欲しいか?」
「はい」
「わかった。ほどいてやろう」
マスクマンはバスタオルの結び目に手をかけた。
「きゃあ!」
めぐみは体をよじって男の手から逃れようとした。
「悲鳴を上げたな?」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
怯えるめぐみを見て、マスクマンはやさしく髪を撫でた。めぐみはされるがままだ。
「俺様は女の子のごめんなさいには弱い。真っ裸にするのは許してやろう」
めぐみは乱れた呼吸を整えると、謝罪した。
「あのときは失礼なことをしました。ごめんなさい。許してください。この通りです」
頭を下げるめぐみに、マスクマンは聞いた。
「反省してるか?」
「反省してます」
「言い訳が聞きたいな」
「リフトを上げないと約束してくださるなら」
マスクマンは笑ったようだ。
「なかなか面白いセリフだ。では言い訳をしてみろ」
全く知らない相手なら恐怖でしかないが、相手がだれだかわかったらしく、めぐみはやや強気に出た。
「悪いのはあたしたちです。でも、あなただって風俗店じゃあるまいし、股も洗ってなんて、年上の女をバカにしていると思いますよ」
「だから謝ったではないか。謝ったのに容赦なくSな意地悪をした」
「それは…」
「おまえも今許して欲しいから謝っているんだろ。それなのに天井まで上げられたら悔しいだろ?」
めぐみは持ち前の短気が出てしまった。
「あなただって気持ちいい思いしたんだからいいでしょう。風俗だったら何万と取られるのよ」
「ほう…」男がリフトをいじる。
「やめて、きゃあ!」
リフトを高く上げられてしまった。めぐみは真っ赤な顔でもがいた。
「わかったから、やめて、やめて、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「かわいいな」
すぐに下ろしてくれた。めぐみは力が抜けた。
(この男完全におかしい。逆らわないほうが身のためだ)
「どうだ。吊された気分は。アニメのヒロインになった気分か?」
めぐみは両目を閉じて、唇を噛んだ。
「それではさらばだ」
「え?」
めぐみは本気で慌てた。男が背を向けて去っていく。
「待ってください!」
「ん?」マスクマンはわざとらしく振り向いた。「何だ。上げてほしいのか?」
「違います。ほどいてください。服も返して」
「服はその黒いスポーツバッグに入っている」
「え?」
めぐみは男が指差すほうを見る。リフトの上にバッグがあった。
「その中に財布や携帯電話も入っている。俺様は強盗じゃないからな」
それだけ言うとまた去ろうとする。
「待って!」
「まだ何か用か?」
「どうしたら許してくれますか?」
マスクマンは、あっさり言った。
「ここは暴走族の溜まり場だ。そいつらにほどいてもらえ」
めぐみは蒼白になり、膝が震えた。
「ヤダ…何でも言うこと聞くから、ほどいて!」
「大丈夫。奴らは硬派だ」
そう言うと、男は本当に行ってしまった。
めぐみはもがいた。必死に両手首に力を込める。外れない。
遠くからバイクが走る音。めぐみは泣き顔で手首を動かした。
「ヤダ、そんなの…」

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