《MUMEI》
恐怖の放置
バスタオル一枚で手首を拘束されためぐみ。しかもバイクの音が段々と近づいて来る。
「ヤダ、絶対ヤダ」
こんな姿を見られたら、万が一にも助からない。泣いてはいられない。めぐみは背伸びして口も使って、必死にほどこうとした。
手錠なら無理だが手ぬぐいのようなものだ。諦めたくない。
めぐみは頑張った。バイクの音がさらに近づいて来る。
暴走族にタオルを取られて裸にされ、リフトで上げ下げされて弄ばれる。そんな最悪の想像を振り払い、口で手首に巻きつく手ぬぐいを緩める。
「やった!」
取れた。バイクが倉庫に入って来る。めぐみはバッグを持つと走った。パレットが高々と積み上げられている。その陰に隠れた。
バイクが次々入って来る。めぐみはパレットを背に尻餅をつき、呼吸を整えると、息を殺した。
服を着たかったが、音で気づかれたらまずい。例え服を着ていても、若い女一人。発見されたら何をされるかわからない。
めぐみは携帯電話で警察を呼ぼうかとも考えたが、万が一音が鳴り響いたらアウトだ。迷った。
しかし、今バッグの中で携帯電話が鳴ったら?
それを思い、めぐみは急いでバッグを開けようとした。そのとき片足を伸ばす。何かに触れた。
(あっ!)
空き缶だ。空き缶は無情にも、倒れた。カランという大きな音が響く。
「ん?」
男たちの話し声がやんだ。
「何今の音?」
「おい、だれかいるのか?」
めぐみは口を押さえた。ふてくされたような顔で泣いた。
体は震えているが、半ば観念した。バスタオル一枚で見つかればおしまいだ。
男たちがパレットの両側から近づいて来る。逃がさない気だ。
もはや万事休した。
男が覗く。
「あっ…」
半裸にされて泣きじゃくる女を見て、少年は驚いた。
裸足だ。恐怖に怯えている。少年はめぐみに聞いた。
「やられちゃったの?」
めぐみは激しく首を左右に振った。
「相手はだれ。半殺しに遭わせてやる」
めぐみは少年を見つめると、泣きながら言った。
「大丈夫です」
「泣き寝入りするのか?」
「いえ、訴えます」
「訴えたほうがいいよ」
めぐみは胸に手を当てた。ドキドキは治まらないが、どうやら助かったような雰囲気だ。
「送ってこうか?」
「大丈夫です」
「でもそのカッコじゃどこにも行けないだろ?」
めぐみはバッグを開けると、服を掴んだ。
「服はあります。この場から今すぐ警察を呼びますから」
「そっか。じゃあ行くよ」
少年たちは去っていった。暴走族ではなかった。硬派な走り屋だ。あのマスクマンはそれを知っていたのか。
しかしめぐみはマスクマンに対しての怒りが湧いてきた。
「絶対許さない。あのガキ」
めぐみは呟くと、警察に電話をかけた。

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