《MUMEI》
重ならない犯人像
美里は、質問を再開した。
「めぐみさんは、その祐也という少年が犯人だと?」
「それしか考えられません」
「声は同じですか?」
「マスクマンは声を作ってました。悪魔みたいな喋り方で」
「悪魔?」
「あ、あの、アニメの悪役みたいな感じ」
「わかります」瑠璃花が即答した。
「身長はどうですか?」美里が聞く。
「まあ、マスクマンのほうが大きく見えましたけど、でもマスクが大きいだけかもしれないし」
「体格はどうですか?」
「マスクマンはがっしりしてるように見えましたけど、でも、マッサージルームでは全裸でしたから、細く見えますよ」
「体格は少し違うんですね?」
めぐみは段々自信がなくなってきた。確かに声も体も違う。
「でも犯人は、よくも恥をかかしたな、みたいなこと言ったんです」
顔をしかめるめぐみに、美里は優しく言った。
「未成年ですから、簡単に容疑者にはできません。連行して違いましたでは済まないので」
「え、まさか、成りすまし?」めぐみは震えた。
「とにかくその少年に会ってみます」
「美沙子が家を知ってます」
美里は、瑠璃花にめぐみを送らせた。二人が部屋を出ると、美里は頭を急回転させた。
祐也が犯人だとしたら、真っ先に自分が疑われるようなことを、果たしてするかどうか…。
それより、もしも復讐だとしたら、美沙子と三人の女子店員も危ない。
美里は課長のデスクまで素早く走った。
「大野課長」
「彼女は、訴えるって?」
「はい。ただ、気になることを調べたいんです。護衛を用意してほしいんですけど」
「美里に護衛はいらないだろう。ハハハ、ハハハ」
課長の大野はケラケラ笑ったが、美里が全然笑っていないので、咳払いして笑いやんだ。
「あたしの護衛じゃありません。あたしの推理に狂いがなければ、三人目の犠牲者が出ます」
大野はさすがに真剣な顔になった。
「ターゲットは四人です」
「四人かあ…」大野課長は頭を触った。
「殺人事件じゃないのに四人も割けませんか?」
美里の鋭い眼差しに見つめられ、大野は思わず姿勢を正した。
「いえ、防犯こそ、警察の仕事であります!」と最敬礼。
「お願いします」美里は頭を下げた。

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