《MUMEI》
パートナー
行こうとする美里を、課長が呼び止めた。
「美里」
「はい」
「君にも一人つけよう」
「あたしは大丈夫です」
「こっちは心配してないよ」大野は両拳を上げて見せた。「こういう事件は男目線も大事だ」
「そうですか」
美里も断る理由はない。捜査員は一人でも多いほうがいい。
「徳中」
「は、はい」
まさか呼ばれるとは思わなかったので、徳中は慌てた。
「おまえ、美里を手伝ってやってくれ」
「僕ですか?」
目を丸くする徳中を、美里は渋い顔で見る。
女子にモテそうな甘いマスクの30歳。しかしお調子者の一面がある彼を、美里は苦手としていた。
徳中も、いつでも真剣勝負の美里とは、好んで組みたいとは思わない。
「徳中。はい喜んでの精神だ」
「居酒屋じゃないんですから、課長。それより僕もいろんな事件に携わってましてね」
「それはほかの者にやらせるから」
「じゃあ、ほかの者をそっちに回せばいいじゃないですか」
課長は徳中を睨んだ。
「美里本人を前にして、そんな嫌うなよ」
課長の不用意な一言に、徳中は慌てた。案の定美里がムッとしている。
「何言ってるんですか課長。美里さんと一緒に仕事できるなんて光栄ですよ」
徳中は喋りながら課長の前まで来た。
「でもね、僕よりも適役がいるんではないかと。常に全体感に立って物事を見ているんですよ」
「瑠璃花チャンも一緒だぞ」
「やります」即答。
美里はますます険しい表情になる。
「やってくれるか?」大野課長は笑顔だ。
「やりますとも」
「今渋ってたじゃないか?」
「私がやります。私にやらせてください!」
「よし決まった。二人とも、仲良く頼むよ」
徳中は美里を見ると、右手を差し出した。
「美里さん。よろしくお願いします」
美里は怖い顔でじっと徳中の顔と右手を見たが、右手を掴むと同時に手首を決めた。
「イテテテテテ、ブレイク、反則、ワン、ツウ、スリー、フォー、ファイブ、はい反則負け、カンカンカンカン」
美里は一言呟いた。
「残念、これはプロレスじゃなくて総合格闘技」
「イタタタ、わかった、タップ、タップ!」

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