《MUMEI》 動揺車の中で、美里は徳中に今までの流れを伝えた。 運転は徳中。助手席に美里。瑠璃花は後部座席にいる。 三人は由美子のマンションへ向かった。 「どうそ」 由美子は三人を部屋に入れてくれた。美里は命の恩人だ。一目置いている。しかし由美子の表情は硬い。何かを警戒している感じだ。 美里が話を切り出した。 「由美子さんに許しを得るまで言えないと思って、きょうお伺いしたんですけど」 「え?」 「実は、二人目の被害者が出てしまったんです」 「!」 由美子は目を見開いて、まじまじと美里を見た。 「二人目の被害者は、川野めぐみさんです」 「え!」 由美子の動揺は、予想以上に激しかった。 「めぐみが?」 「はい。めぐみさんは告訴しました」 告訴と聞いて、由美子は俯いた。瑠璃花と徳中はじっと由美子の様子を見ていた。 美里が優しく聞く。 「由美子さんは、やはり告訴はしませんか?」 「……」 「めぐみさんには、まだ由美子さんが被害に遭われたことは伝えていません。お二人のお話を聞くと、同一犯人のような気がします。手口が似ています」 美里はさらに聞いた。 「犯人は、マスクをかぶっていましたか?」 「知りません」由美子は下を向きながら答えた。 「知らない?」 「何も覚えてません。早く忘れたいんです」 「でも、めぐみさんのほかに、美沙子さんも心配です」 美沙子と聞いて由美子はビクッとした。 「あと、女子従業員三人も心配です。早く犯人を逮捕したいんです。ご協力していただけませんか?」 由美子は顔を上げると、答えた。 「だから何も覚えていないと言ってるでしょ。いい加減なことは言えません」 徳中が美里に目配せした。美里は仕方なく頷き返す。 「わかりました。ありがとうございます」 「…めぐみは、めぐみは無事なんですか?」由美子は心配そうに聞いた。 「はい。乱暴はされていません。でも、凄く怒っています」 由美子は、責められているような気持ちになり、黙った。これ以上は聞けない。三人は丁重にお礼を言ってから、部屋を出た。 前へ |次へ |
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