《MUMEI》
緊迫
緊迫の玄関。美里は、祐也が逃げ出したら格闘する構えだ。
「マッサージを受けたのは、あの日が初めてですか?」
美里の質問に、祐也が怒る。
「冗談じゃない。悪いのは彼女たちのほうじゃないか。あれで逮捕するというなら、どうすればいいんだ?」
「逮捕?」
「両手首縛られたら抵抗はできない」
「認めるのね?」美里の目が光る。
「認めない。僕は何も悪くない。僕は被害者だ」
「何ですって!」
「彼女たちが加害者だ」
美里は祐也を睨んだ。
「自分がしたことの重大さがわかってないみたいね?」
美里の強い姿勢に、祐也は狼狽した。
「わかったぞ。彼女たちがデタラメな証言をしたんだろう。警察は一方の話を聞いて逮捕するのか?」
美里は戸惑った。言われてみれば、片方の意見しか聞いていない。
徳中が口を挟んだ。
「祐也君。落ち着こう。君の話もちゃんと聞くから」
徳中の友好的な笑顔を見て、祐也は少し落ち着いた。
「僕は両手首を縛られた上、三人の女性が面白がって体を押さえつけていたから、全くの無抵抗だったんだ」
「へ?」
徳中は思わず気の抜けた声を出した。美里と顔を見合わせる。
「まずいと思ったから、やめてくださいとお願いしたのに」祐也は思い出したのか赤面した。「男は何されても男が悪くなっちゃうんですか?」
美里は困った。徳中も困った顔をしながら言った。
「よくわかりました。君が被害者です」
「本当ですか?」祐也は安堵の表情で聞いた。
「脅かして悪かった」
「いえ。それが警察の仕事ですから。誤解が解ければいいんです」
しかし美里が鋭く切り込む。
「念のために、おとといの夜どこにいました…痛ッ」
頭をはたく徳中を美里が睨んだが、徳中はあっさり言った。
「ではこれで失礼します。お邪魔しましたあ!」

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