《MUMEI》
ベル
「タイキ、じゃあな」
「おう」
大貫 タイキは片手を挙げて友人と別れた。

まったくつまらない、平凡な毎日。

 別に不満などありはしないが、何か面白いことが起こりはしないかと思うのも事実。

おそらく、今、生きている人間全員がそう思っているのだろう。

「なんか面白いことないかな〜」
ぼやきながら、アパートへの道を歩く。

今日も帰ってから、勉強をしなければならない。

 タイキの通う私立高校は、進学校だ。
成績がすべて。
そんな学校生活も、うんざりだ。
毎日、毎日、勉強ばかり。
 受験生にとっては当たり前のことなのだろう。
おそらく、友人たちは全員、タイキよりも長い時間勉強に勤しんでいるはずだ。

将来、何をしたいかも分からないまま……

今の生活に、なんの意味があるのかわからない。

タイキは大きく息を吐いた。

 その時、通りすぎたスーパーマーケットから、けたたましいベルが聞こえてきた。

何事かと振り向くと、タイキの真横を風のように何かが通りすぎた。

「……え?」
タイキが捉えたのは、派手な服装の少女の後ろ姿だった。

 すぐ後ろでは、店員や買い物客がパニックになっている。
そんな様子を面白がるように、少女は一瞬振り向き、走り去って行った。
「…なんだよ、いったい」
眉を寄せながら、タイキは呟くと、再び歩き出した。

スーパーではまだ、警報ベルが鳴っていた。

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