《MUMEI》
美沙子のファン
美沙子のアパートに着いた。徳中は、美沙子のアパートを張っている車に声をかけた。
「ご苦労さん」
「異常なしです」
美沙子の部屋は一階だから、ドアがよく見える。だれかが尋ねて来ればすぐにわかる。
「ベランダ側にも見張りをつけたいところだけど」美里が言った。
「課長に言ってみれば」
「無理でしょ」
三人は美沙子の部屋に上がった。
「狭くてすいません。テキトーにすわってください」
キッチンに行こうとする美沙子に、美里が言った。
「あ、お構いなく」
愛らしい、明るい笑顔が素敵な美沙子に、徳中の目が丸くなる。スタイルが抜群で、健康的な脚を惜しみもなく披露する。
「美沙子さん、すいません、出されたものは一切飲みませんので」
「そうですか?」美沙子は仕方なくベッドに腰かけた。
「洒落たお部屋ですね」徳中が笑顔で部屋を見回す。「1DKですかあ。センスを感じますね」
「そんなそんな」美沙子は白い美しい歯を見せた。
(魅了されてんじゃねえよバカ!)
美里は徳中に眼を飛ばすと、美沙子に話しかけた。
「めぐみさんと話しましたか?」
「はい。だいたいの話は聞きました。やっぱり、祐也君が犯人なんですか?」
「彼は関係ないと思います」美里が即答した。
「そうなんですか?」美沙子は喜んだ。「てことは、別に犯人がいると…」
「オイルマッサージのとき、近くにだれがいたか覚えていますか?」
「えっと、めぐみと由美子さんと、女子従業員三人。あと、夜月さん」
「やづきさん?」
「男性のアルバイトです。最近入った人なんですけど、あのとき祐也君が逆ギレしたら女だけじゃ止められないと思って、夜月さんに頼んだんです。暴れたら助けてねって」
太い線だ。美里と徳中は顔を見合わせた。徳中が身を乗り出して聞く。
「やづきさんはずっとそこにいましたか?」
「はい。確か、いましたね」
「やづきって、どういう字を書くんですか?」
「よるにつきです。夜月実」
「みのるってもしかしてジツですか?」
「そうですそうです」
美沙子がニコニコすると、徳中も笑顔で言う。
「僕も照実って言うんです」
「てるみ?」
「夜月さんと同じ実」
「ああ…」
(関係ねえだろ)
美里はまた徳中に眼を飛ばすと、美沙子に聞いた。
「夜月さんは、美沙子さんとよく話されるんですか?」
美沙子は急に表情が硬直した。
「何でそんなこと聞くんですか?」
「いや…」
「夜月さんは優しい、いい人ですよ。犯人のわけがありません」
美沙子が同僚を疑われることに警戒した。ここは粘りどころだ。
「まさか。疑っているわけではありません」美里が弁解した。
「面白い人ですよ。自惚れてるわけじゃなく、あたしのファンなんです」
「ファン?」
「冗談半分に、俺は幼稚園の頃から美沙子一筋だからとか言うんです」
徳中がすかさず言った。
「男がそういうセリフ吐くときは結構本気ですよ」
「本当ですか?」美沙子がまた笑顔になった。
「美沙子さんだけにそういうセリフを」瑠璃花が聞いた。
「たぶんそうだと思います。ほかの子は、影がありそうとか言って夜月さんを敬遠してるから」
「影好きですか?」徳中が聞く。
「ミステリアスな人っていいじゃないですか?」
美沙子が乗りまくる。明るい雰囲気に戻った。美里は、徳中に呆れながら感心した。
「美沙子さん、きょうはありがとうございます」
美里はお礼を言うと立ち上がった。徳中と瑠璃花も素早く立つ。
「お役に立てませんで」
「とんでもないです」

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