《MUMEI》

言い聞かせてやれば、だがそれでも相手は掴んだまま離そうとはしない
頑ななその様に
「……基さん。すいませんが、その子も連れて行ってあげてくれませんか?」
一応上司である相手からの丁寧過ぎる頼み
無下に断ることも出来ず、本城は仕方なしに相手へと手を差し出してやった
「ボス。この借りは高くつくから。覚悟しておいてね」
「お手柔らかに頼みますよ。基さん」
引き攣った様な笑みを浮かべる相手へ
本城は不敵な笑みを相手へと向けるとその場を後に
漸く帰宅し、気怠げに背広を脱ぎ棄てソファの上へ
「……何、してるの?そんな所に経ってないで座ったら?」
落ち着かないんだけど、と言って向ければ相手はゆるり靴を脱いでいた
「動物、沢山……」
部屋の中へと入って見れば
決して広くはない其処に大量の動物達が
「勝手に居付いてるんだ。別に飼ってる訳じゃない」
素気ない本城へ
だが相手はどうしてか笑みを浮かべる
「何?」
「動物、好き。優しい人」
「優しい?僕が?」
今の今まで言われた事のないソレに
動物達と戯れ始めた彼女を眺め見ながら
取り敢えず本城は先の騒動で汚れてしまった着衣を脱ぎ捨て
クローゼットから新しく出してきたソレに袖を通す
本音はこのまま家で惰眠を貪りたい処なのだが、やはり上司の命令は絶対で
仕方なしに、また出掛ける
「……基は、何をしてる人?」
車へ連れて乗せ、そして運転を始めた本城を、相手はまじまじと眺め
気になっていたらしいそれを問うてきた
いきなりの問いに、だが何を今更にと本城は肩を揺らす
「僕が何者か、気になるの?」
「……少し、だけ」
強い主張ではなく、飽く迄控えめなそれに
だが本城は教える気が甚だないのか
本城は何を答えて返す事もせず
唯、薄い笑みを口元へと浮かべるだけ
「基?」
返答がない事に首を傾げ、顔を覗き込んでくる相手
何の他意のない、唯(知りたい)というその眼差しに
仕方がない、と溜息をついた
その直後
家の戸が叩かれる音が鳴り、何事かと本城は戸へ手を掛ける開くと同時、その来客へと銃口付きつけていた
「……本城、お前ね。取り敢えずは誰が来たのかぐらい確認しろよ」
ソコに立っていたのは同僚
苦笑を浮かべながら取り敢えず文句を言うと
持ってきたらしい茶封筒を差し出してきた
「これ何?」
「ボスからお前宛てにラブレター。早急に読んで欲しいってさ」
「いらないよ」
「駄目。絶対に眼を通してくれって。ボスからの命令」
命令。やはりその言葉にはそれなりに逆らえず
渋々それを受け取ると、封を切る
その中身へ、流す様に眼を通せば、すぐ様ソレをまた封筒へと戻していた
「で?ボスは何だって?」
わざわざ手紙を握り潰しゴミ箱へと放り投げた本城へ
同僚が問うてみれば
「予定、変更だそうだよ。この子を依頼主の処に連れて行けだって」
「えらく急だな。どした?」
「知らないよ」
素気なく答えて返し、本城はそのまま部屋を後に
その後、ささやかな足音が追う
まるで雛鳥の様に
本城の後に付き従い、離れようとはしなかった
「……ま、別にいいけど」
随分と気にいられたものだと肩を揺らし
その理由を、本城は何となくだが理解していた
その事に、自身の髪を掻いて乱しながら溜息を吐いて
車へと乗り込むと、目的地へと走り出す
「何所、行くの?」
正面を見据え、ハンドルを操っていく本城へ
相手は首を傾げながら問う事をしてきた
「……僕が何者か、これから嫌でも解るよ」
問いに対する答えは以前の問いに対するそれで
それ以上何を言う事もせず、車は道路をひた走る
そして到着した其処は
この国の中枢、国家主席邸宅
「……主席にお目通り願いたいんだけど」
「あなたは……。お待ちしておりました」
どうぞ中へ、と招き入れられれば、そこは絢爛豪華な彩りの世界
煌びやかな内装に、傍らの相手が驚く様な声を上げていた
「行くよ」
その手を引き、目的の人物がいるだろう二階へ
上がれば女性が一人、二人の来訪を待ち侘びていたかの様にソコに居た
「態々出迎えかい。ヴァレッタ」
大人な雰囲気の外見にそぐわないはしゃぎ様に
呆れた様な溜息を本城が吐くと、ヴァレッタは満面の笑みを更に浮かべ

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