《MUMEI》
手ごわい男
夜月はいきなり笑った。
「私、刑事ドラマ好きなんですよ。だから聞き込みされたとき、今みたいなリアクションしたら受けるかと思って。いやあ、お二人のおかげで夢が実現しました」
「ふざけないでください」美里が怒る。
「あれ、もしかして恫喝ですか? 警察の十八番出ちゃった?」
(こいつ…)
一筋縄では行かない。
美里も負けずに質問した。
「失礼ですが、おとといの夜、どこにいました?」
「覚えてません」即答。
「きのうの夜は?」
「妄想してました」
本気で答える気はないのか。
「どこで妄想してましたか?」
「美人教師が不良少年に囲まれて絶体絶命…」
「中身は聞いていません。場所を聞いているんです」
「場所は…倉庫の中かな?」
「え?」美里は焦った。「どこの倉庫ですか?」
「そこまでは考えてません。倉庫という設定は定番でしょう。ハッハッハッ」
美里はムッとした。
「夜月さん。部屋を見せてもらってもいいですか?」
「あれ、俺に何か嫌疑がかけられてるの?」夜月が嬉しそうに聞いた。
徳中が笑顔で答える。
「いやあ、とりあえず全員疑うのが警察の仕事でして。だから嫌われるんです」
「嫌ってなんかいませんよ。特にそちらの刑事さんはチャーミングです」
「入ってもよろしいでしょうか?」美里が睨む。
「仕方ない。疑いが晴れるならば。ところで何の事件ですか?」
美里と徳中は部屋に上がり、証拠になるものを探した。
さすがにマスクはないか。
「刑事さんはおいくつですか?」
「あなたは?」
「32」
「…24です」
「若い。本当に素敵。かわいい。押し倒したい」
美里はムッとして手錠を出した。徳中が慌てて止める。
「ちょっとちょっと」
「あれ、今のは何かな。今のは何かな?」夜月が満面笑顔で騒ぐ。
「何でもないです。帰ります」
徳中は美里を押しながら玄関に向かう。
「失礼しました」
「とんでもない。楽しかった。また遊びに来てください。熱烈歓迎しますよ」
二人は部屋を出た。無言のまま廊下を歩き、エレベーターに乗った。
「美里」
「ごめんなさい」
いきなり頭を下げられて徳中はドキッとした。
「わかってるならいいよ。しかし犯人だったら警察を挑発するかなあ?」
「疑われることを恐れてないわね」
徳中は得意満面になると言った。
「でも無駄足じゃなかった。夜月実の部屋からいいもん見つけたから」
「何かあった?」
「レンタルビデオ店に行こう」
「レンタルビデオ?」

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