《MUMEI》
ドエスアクマン
それから三人は、レンタルビデオ店へ行った。朝から一日フル回転だ。
徳中は広い店の中をどんどん奥へ行くと、真っすぐ18禁コーナーに向かった。
「ちょっと、徳中さん。捜査中よ。何考えて生きてるの?」美里が腕を取る。
「違うよ捜査資料だよ。署に戻ったら説明するよ」
そう言うと、あっさりカーテンの中に消えた。
「恥ずかしい」瑠璃花が俯く。
カーテンに思いっきり『18禁』と書かれていると、返って入りづらい。
「よくも平気でこんなところ入れるわね」美里が腕組みする。
「ここにあたしたちがいると、だれも入れませんよ」瑠璃花が男性客を気遣う。
「いいことじゃん」
「それって営業妨害になりませんか?」
美里は瑠璃花を睨むと、仕方なくカーテンから離れた。
「捜査のヒントにならなかったらハイキックだよ」
「アハハ」
徳中が出てきた。
「お待たせ。これだよ」
徳中がパッケージを見せる。アニメだ。美少女が全裸で磔にされている。美里は顔をしかめた。
「ドエス…アクマン。そのまんまやん?」瑠璃花がタイトルを読んで呆れた。
「アニメ?」美里が睨む。
「ドS悪魔とマンをかけたんだよ」
「そんな説明はいいから」
徳中はカウンターへ行くと、わざわざ女子店員に出した。
「逮捕しようか?」
「ある意味男らしい」
「何か言った瑠璃花?」
「独り言です」


警察署に戻った。課長たちはほかの大きな事件で忙しそうだ。美里と徳中と瑠璃花は小部屋にこもり、そこを捜査会議室にした。
「夜月実の部屋にこのDVDがあったんだよ。シリーズ全5巻揃っていたから結構なファンだ」
「なるほど。容疑者じゃないから押収するわけには行かないもんね」美里が言った。
「この作品の中にヒントが隠されているかもしれない」徳中はDVDを入れた。「これはシリーズ4だよ」
「あなたが見たいわけじゃないでしょうね?」
「まさか」
「見ましょう」瑠璃花の瞳も期待感に満ちている。
画面に見入る徳中と瑠璃花。美里は二人の後ろで渋い顔をしていた。
アニメが始まった。
気の強そうな美少女が、敵のアジトに潜入。廊下を素早く走る。
短めの黒髪がよく似合う。純白の衣装が美しく映える。
「彼女は天使だよ」徳中が説明する。
「天使?」瑠璃花が興味津々だ。
「ドエスアクマンは悪魔。天使は悪魔に犯されてイカされたら、悪魔にされちゃうんだ」
「嘘!」瑠璃花はおなかに手を当てた。
「今までも何人もの天使がドエスアクマンに捕まって、無念にも虜にされて、悪魔にさせられちゃったんだ」
「屈辱」瑠璃花の顔が赤い。「この子も逃げないと」
「彼女は主人公だよ。仲間の仇討ちに来たんだ」
美里が口を挟む。
「徳中さんストーリーに詳しいわね?」
「うっ…」徳中は冷や汗100リットル。
「ヒントが出て来なかったら泣かすよ」
徳中は振り向いた。
「何言ってんの。美里もちゃんと見てヒントを探すんだよ」
「その子いくつ?」
「…19だよ」
「16、7に見えるけど。徳中さん逮捕しようか?」
「あ、天使だから137億歳だ」
徳中のセリフに同意の頷きをする瑠璃花。美里は孤独感を感じながら、仕方なく作品を見た。

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