《MUMEI》 . わたしはゆっくり廉の顔を見上げた。彼はわたしのことは見ておらず、ダテ眼鏡越しに、まっすぐ正面を見据えたままだった。 それはいつも通りの廉の姿で、 わたしは、どこか、ホッとする。 まえに学校で会ったとき、素っ気なく『バイバイ』と言ってしまったときから、 もう二度と、こんなふうに口ゲンカ出来ないだろうと、寂しく思っていた。 なぜそう思うのかは、あえて考えないようにした。 わたしは顔を俯かせ、あっそ、と素っ気なく呟く。 「体験したいなんて、言った覚えないけどね」 「相変わらず、かわいくねーな」 「それはお互いさま」 「ふざけんな。お前と一緒にすんなっつーの」 途切れることなくつづく会話が、うれしかった。 わたしは廉に寄り添ったまま、夜の街の中をゆっくりと歩いた。 ****** 前へ |次へ |
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