《MUMEI》

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わたしはゆっくり廉の顔を見上げた。彼はわたしのことは見ておらず、ダテ眼鏡越しに、まっすぐ正面を見据えたままだった。


それはいつも通りの廉の姿で、

わたしは、どこか、ホッとする。


まえに学校で会ったとき、素っ気なく『バイバイ』と言ってしまったときから、

もう二度と、こんなふうに口ゲンカ出来ないだろうと、寂しく思っていた。


なぜそう思うのかは、あえて考えないようにした。


わたしは顔を俯かせ、あっそ、と素っ気なく呟く。


「体験したいなんて、言った覚えないけどね」


「相変わらず、かわいくねーな」


「それはお互いさま」


「ふざけんな。お前と一緒にすんなっつーの」


途切れることなくつづく会話が、うれしかった。

わたしは廉に寄り添ったまま、夜の街の中をゆっくりと歩いた。





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