《MUMEI》
前科
美沙子は、めぐみに電話をかけた。今は服も着て落ち着いている。
美沙子はベッドに腰をかけると、美里と瑠璃花に詳しい話をした。
怪我はしていないし、とにかく犯人を捕まえてほしいと、元来勝ち気な美沙子は、捜査に協力を惜しまなかった。
ピザ宅配の店員は、一旦車の中で尋問し、すぐに解放した。足止めが原因で首にでもなったら大変だ。
事件解決のためならバイクも車も盗んでもOKなんて、アクション映画だけだ。
警察は何をしてもいいというわけではない。
めぐみが来た。何と由美子も一緒だ。
「由美子さん」美里と瑠璃花は驚いた。
「すいません。あたしも、捜査に協力します」
「由美子さん」
三人はとりあえずベッドに並んですわった。
「美沙子、大丈夫?」
「死ぬほど怖かった」
美里は唇を噛んだ。犯人は美沙子が帰宅する前から部屋の中にいたとしか考えられない。
ドアとベランダの両方を見張っていたのだ。
(犯人は、アニメから飛び出した悪魔か?)
そのとき、由美子が言った。
「美沙子。犯人の声、夜月さんに似てない?」
「夜月さんはあんな変態じゃないよ」美沙子は否定した。「完全にイカれてたから」
美里と瑠璃花も真剣に話を聞いていた。
めぐみが首をかしげる。
「あたしも最初は祐也とばかり思ってたけど、言われてみれば、夜月さんに似ていると思う。辞めたのもタイミング合い過ぎだし」
「辞めたんですか?」瑠璃花が目を見開いて聞いた。
「辞めました」
美里と瑠璃花が顔を見合わせる。そこへ徳中が鑑識と一緒に部屋に入ってきた。
「美沙子さん、大丈夫ですか?」
「はい」
「あ、ちょうどいい。三人揃ってるところで見てほしいものがあるんです」
「何?」美里が聞いた。
徳中は皆の前にすわると、ドエスアクマンの絵を見せた。
「きゃあ!」美沙子が思わず悲鳴を上げた。
「やはり、これですか?」
由美子もめぐみも驚いた。
「そうです。このマスクです。間違いありません」
あとは護衛の刑事に任せて、美里たちは車に乗り込んだ。徳中が運転しながら話す。
「夜月実、前科あったよ」
「ホント?」美里の目が光る。
「実刑食らってるんだよ、性犯罪で」
「え?」
美里と瑠璃花は目を丸くした。
「被害者は二人。19歳の女子大生を監禁して強制わいせつ。もう一人は24歳の市役所の職員を監禁して強制わいせつ」
「懲役何年?」美里が怒りに満ちた顔で聞いた。
「1年6ヶ月」
「何で!」
激怒する美里に、徳中は冷静に言った。
「レイプをしていないって、それだけ大きいんだよ」
「未遂でしょう?」
「未遂じゃないよ。今回と同じ手口。始めからレイプが目的じゃない」
「じゃ何?」
「ゲームだよ」
「死刑だ」美里は吐き捨てた。
「今の法律では無理だよ。再犯だから、執行猶予はつかないだろうけど」
「冷静ね。あなたも男だから」
「先輩!」
「逮捕するとき、鉄拳制裁しなきゃ」
「ダメだよ」徳中は厳しくたしなめた。
美里は、納得いかない表情で窓の外を眺めた。

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