《MUMEI》
絶体絶命
瑠璃花は夜月実のマンションへ行き、一階のエレベーターの前で夜月を待ち伏せした。
タンクトップにショートスカート。裸足に洒落たサンダル。
露出度の高いセクシーな格好で、ひたすら夜月を待った。バッグには手錠が入っている。
(あっ…)
夜月実が来た。黒装束。不敵な風貌。罪悪感皆無という感じの男。
瑠璃花は燃えた。
エレベーターの前に立つ。夜月はちらちらと瑠璃花を見る。
エレベーターが来ると、彼女はすました顔で先に乗った。夜月も乗る。
「何階ですか?」瑠璃花はキュートなスマイルを向けた。
「6階です。ありがとう」夜月が微笑む。
9階のボタンを押す瑠璃花を見て、夜月が聞いた。
「君、ここのマンションに住んでる人?」
「いえ、ちょっと星を見たくて屋上に」
「屋上に?」
「はい」
「夜の屋上は危ないから気をつけて」
「あ、ありがとうございます」再び笑顔の魅力光線。
六階で夜月が降りた。
「ふう!」瑠璃花は緊張していた。
彼女は屋上に出た。確かに夜の屋上は危ない。不良少年が煙草でも吸っていたら困るので、一周してだれもいないかを確かめた。
中央に出入口があるから、屋上全体が見渡せない。
このマンションより高い建物は周囲にない。ということは、双眼鏡でも使わない限り、ほかのビルからは見られる心配はない。
「屋上は穴場だ」
また瑠璃花は危ない発作が出そうになった。
夜の屋上なら全裸で歩いても大丈夫かもしれない。
「いけない、いけない!」
瑠璃花は頭を左右に振った。二度としないと天に誓ったから助けてもらったのだ。
約束を破ったら今度こそ赤っ恥をかく。一人羞恥プレイが目的ではない。ドキドキする方法はほかにもあるはずだ。
今も別の意味でハラハラしている。夜月が来たら、わいせつ行為をされるまで待つ。その瞬間手錠をかけて屋上の柵などに手首を拘束し、応援を呼ぶ。
念のために催眠スプレーもスタンガンもある。いざとなれば金的蹴りだ。
「……」
夜月は来ない。
「あたし、魅力ないかなあ?」
夜月は現れない。
「美沙子さんにも負けてないと思うんだけど…」
瑠璃花はがっかりした。来るなら、帰らないうちにすぐ来るはずだ。
30分以上経っている。きょうは来ないかもしれない。瑠璃花は一旦屋上から出た。
広い踊場には六畳くらいの小部屋がある。今にも壊れそうな古いドアは開放されていて、中にはベッドか作業台か、シートを被せてあるから見えないが、Wベッドのように大きい台がある。
部屋にはいろんな小道具が置いてあるから、管理人が使っている部屋かもしれない。
瑠璃花は入ってみた。妙な気持ちになってきた。おなかに手を当てる。
いけない想像をして胸の鼓動が激しく高鳴る。あの夢の体験を現実で味わうのは、今を置いてほかにないか…。
瑠璃花はタンクトップを脱ぎ、スカートも脱ぎ、下着も全部バッグの中に押し込むと、屋上に出た。
バスタオル一枚と全裸では興奮度も爽快感も全然違う。
「気持ちいい!」
両手を広げて冷たい夜風を体に受ける。
裸。
この緊張感がたまらない。
「やっぱりあたしおかしい」
普通じゃない。自覚はある。
瑠璃花は屋上を一周したが、夜月以外の人間に襲われたら何の意味もないと思い、小部屋に戻った。
「!」
瑠璃花は自分の目を疑った。バッグがない。服がない。
「嘘でしょ?」
管理人が落とし物と思って持っていってしまったのか?
全裸でここに置き去りにされたら、自力ではどうすることもできない。
「どうしよう?」思わず涙がこぼれた。
もう天に助けを求めても聞いてくれそうにない。
瑠璃花は再び屋上に出て、無駄だと思いながらもバッグを探した。
ない。どこにもない。人生最大の大ピンチだ。
本当に絶体絶命の窮地に追いやられてしまった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫