《MUMEI》
オヤジとのキス
「だあああっ! もういい加減にしろよ!」

高校の歴史準備室で、オレは絶叫した。

そこの主は歴史の教師であり、オレの家のお向かいさん。

…いや、ただの30過ぎたオヤジだ。

オヤジの職場である歴史準備室には、さまざまな資料がそれこそ山のようにゴミのように溢れ返っている。

「また資料を増やしたな! どうすんだよ、コレ!」

「どーすっかなぁ、コレ」

当の主はぼ〜と資料の山を見つめている。

普段はヤル気の無いオヤジのクセに、何故か歴史のことになると熱くなる。

だから資料とか自分の給料で買ってきては、家に置けないからと歴史準備室に置く。

そして…溜まっていく。無限大に。

そうしてはオレを呼び出し、片付けをさせるんだ。

オレがイヤイヤながらも片付けをしてしまう理由は…。

「まっ、こんなのお前にかかればすぐ、だろ?」

「アンタの目は節穴か? 世の中には限度ってモンがあんだよ」

「限度か。難しい言葉を使うようになったもんだ。昔は一人でトイレも行けなかったお前が」

出たっ! オヤジはこうやって昔話を持ち出しては、半ば強制的にオレを使うんだ!

「トイレは今、関係ねーだろ? それよりアンタも手伝えよ。一人じゃ終わんねーよ」

「へーへー」

ヤル気の無さそうなオヤジの背中を押して、オレは改めて部屋の中を見て、ため息を吐いた。

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