《MUMEI》

一時間後―。

「…自分自身に限界を感じてきた」

「まだ十六のクセに何を言ってやがる。希望を持て」

淡々と片付けるオヤジ。

だがオレは終わりなき片付けに、めまいがしていた。

「悪ぃ。少し休む」

フラフラと何とか発掘したイスに座る。

「そっか。んじゃ、休むか」

オヤジはこれまた発掘した長ソファーに腰掛け、タバコを取り出した。

「オイッ! 資料にタバコの匂いが移るだろうが!」

「ああ、そうだった」

オヤジはタバコを持って、ベランダに出た。

そして吸い始める。

オヤジが開けた引き戸から、気持ち良い風が吹いてくる。

…オレ、何やってんだろうな?

いくら昔のことを持ち出されるとはいえ、こうやっていつまでも使われて…。

でも呼び出されるたびに、少し嬉しく思ってしまう自分が情けねぇ…。

窓越しに、オヤジの顔を見る。

黙っていれば、渋いオヤジとしてまあ…モテる。

ちょっとだらしないところとか、無気力なところもフォローしてやろうという気が起きる。

…女の影があった時期もあった。けどすぐに消えて…それを何度か繰り返してたっけ。

家が向かいで母親同士が仲良かったせいで、オレはアイツに育てられたようなもんだったけど…。

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