《MUMEI》

そろそろ、距離を置いた方が良いのかもしれない。

仕事が忙しい父親とは、あんまり仲良くなかった。

そのせいもあって、オヤジのことを父のように、兄のように慕っていたけど…邪魔になっているんじゃないだろうか?

オレの面倒を見ているから、オヤジはちゃんとした恋愛ができないなら…お互いの為に、一度距離を置いた方が良い。

「お待たせ。どれ、今日はここまでにするか」

「はあ!? つーか半分も終わってねーだろ」

「ゆっくりやるさ。また手伝ってくれるだろ?」

余裕の笑顔がムカついた。

だからイスを蹴って立ち上がった。

「―もう二度と手伝わない」

「あっ?」

オレはそのまま、オヤジに背を向けた。

「そういうことは、アンタ目当ての女子生徒とかにやらせろよ。オレはもう二度と、手伝わないから」

「おいおい」

歩き出したオレを、オヤジが背後から抱き締めてきた。

「そんなに怒ることじゃないだろ?」

「怒ってなんかっ…!」

ただ、距離を置きたかった。

コイツに振り回される自分が、情けなくなったから。

「じゃあ褒美がないから、拗ねてるのか?」

「そこまでガキじゃねーよっ! 確かに褒美がねーけどなっ!」

手伝いをして、褒美らしい褒美を貰ったことがない。

けれどそういう問題じゃない!

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