《MUMEI》 涙が出そうになった。 だから力を振り絞って振り返り、オヤジに正面から抱きついた。 「おっおい…」 「ごめっ…ちょっ、嬉しくて泣きそう…」 そのまま、ぎゅうっと抱き締める。 「ったく。やっぱりガキだな」 優しい声。きっと優しく笑っている。 大きくてあたたかな手が、オレの頭を撫でる。 昔から変わらない優しさが、胸の中を熱くする。 「―愛してるよ。ずっと守ってやるから、側にいろ」 守ってやるって何だよ? オレだって男なんだから、お前に守ってもらわなくても、生きていけんのに…。 でもきっと、コイツがいなきゃ、オレは生きていけない。 オレの全ては、コイツでできているんだから…。 「…ああ」 消え入りそうな声だったけど、オレはちゃんと言った。 オレを抱き締める手に、再び力がこもる。 「ありがとう。それじゃ…」 オヤジは少し離れて、微笑んだ。 「今度、俺の部屋の掃除も頼むな」 「…はあ?」 「いやー。部屋も限界でな。そろそろヤバイんだ」 …コイツ、ただ単に掃除するヤツが欲しいだけなんじゃないか? 疑心にかられたオレに、オヤジは耳元で囁く。 「―ちゃんと家の合鍵、渡すからな」 ………オヤジには、やっぱり敵わない。 前へ |
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