《MUMEI》 揺られて「何処に行こうか。」 相席の男性は馴れ馴れしく、口ぶりからしてまるで彼氏面だ。 シャンパンゴールドの海。 赤い車内に椅子は綺麗に革が張られている。 音も無く走る、窓辺に光る水滴がパチパチ跳ねた。 「乗車券を。」 私は確かポケットに入れていたはず……。 「あれ?ない……」 「お持ちでない!みなさん、彼女は乗車券を持っていないのです!」 車掌は大袈裟に周りに聞こえるように叫んだ。 いやなやつ。 「降りなければね。」 相席の男が窓を開く。 「うそ、うそうそ!」 外に放られるなんて……。 「嗚呼、良かった。意識不明だったんだよ……。」 彼が、私の両手を握っている。 「乗車券は……」 ポケットには何も入っていない。 『何処に行こう?』 ふと、 あの、相席の男の声がしたような気がする。 きっと、手癖が悪かったのだろう。 前へ |次へ |
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