《MUMEI》
強気の瑠璃花
泣き顔で必死にバッグを探す瑠璃花。小部屋に戻って隅々まで探したがない。
台の上のシートを上げてみる。ベッドだ。仮眠でもするのか?
残念ながらシーツはなかった。シーツさえあれば、くるまって九階の人に助けを求めることもできる。
ベッドの下を見た。アイロンしかない。
全裸で途方にくれた顔をする瑠璃花は、もう一度屋上に出た。
無駄だとわかりながらも、バッグを探し回る。瑠璃花はムッとした。天は無情。女の子にはきつ過ぎる仕打ちだと思った。
「やだ、どうしよう?」
趣味がバレたら身の破滅だ。警察官だからテレビのニュースに出てしまうか?
甘えかもしれないが、名前を出すのは許してほしかった。
バラエティーが頭をよぎる。晒し者にされたら困る。そこまで酷いことはしないと思うが…。
裸が夜風に当たる。快感なんてもう感じない。失禁しそうな恐怖しかない。
赤っ恥をかきたいわけではない。こんな絶体絶命、だれも望んでいない。
「だれか助けて」
泣いても仕方ない。瑠璃花は唇を噛んだ。
「探しものはこれかな?」
「え?」
驚いて振り向く。そこにはマスクマンが立っていた。
(…ドエスアクマン)
瑠璃花は睨んだ。
「探しものはこれかな? お嬢さん」
「返して」
右腕で胸を隠し、膝を曲げて大切なところを隠し、左手を差し出す瑠璃花。
美しい魅惑的な裸体のセクシーなポーズに、ドエスアクマンは興奮した。
「返して」
「俺様の質問に正直に答えたら、返してあげる」
瑠璃花は、強気の目で唇を噛んだ。
(こんな卑劣な男の術中になんか、ハマってたまるか!)
「質問って、何よ?」
「ここで何をしていた?」
「別に」
「なぜ裸なんだ?」
「夜の月が出るのを待ってて、退屈しただけよ」
マスクの中の表情が動いた気がした。
「露出狂か?」
「違うわ」
「露出狂だろ?」
「そんなんじゃない!」瑠璃花は鋭い目で睨む。
「じゃあ何だ?」
「あなたには関係ないでしょ!」
「正直に答えないならこうだ」
マスクマンは瑠璃花のバッグを高い柵の向こう側に投げようとした。
「わかった、やめて!」
男は手を止めて瑠璃花を見た。
「ハラハラドキドキを味わいたかっただけよ」
「ほう」
マスクマンは興味を持ったようだ。
「それはいい趣味だ。俺様と気が合うかもしれん」
マスクマンが近づいてきた。瑠璃花はゆっくり下がる。
「名前は何て言う?」
「自分が先に名乗りなさいよ」
男はまたバッグを投げようとした。
「待って、瑠璃花!」
「るりか。かわいい名前だな。漢字を一発で当てたら何でも言うこと聞くっていうゲームはどうだ?」
瑠璃花は意表を突いた。
「レイプはヤダ。触るだけと約束してくれるなら賭けてもいいわ…」
マスクマンは、意外な答えに戸惑っている様子だ。瑠璃花はさらに言った。
「もしも漢字を一発で当てられなかったら、服を返してくれますか?」
「もちろんだ。しかし俺様が賭けに勝ったら、最高のハラハラドキドキを体感させてやる」
「遠慮しとくわ」
「よし。これに漢字を書け」
マスクマンはいきなりメモとペンを出した。
「下に置いて離れて」
「信用しろ。賭けが終わるまでは何もしない」
瑠璃花は警戒しながらメモとペンを取った。サラサラと名前を書く。
「書いたわ」
「答えは…」
緊張の一瞬。当てられたらまずい。瑠璃花の額に汗が光る。
「ひらがなだろ?」
瑠璃花はため息を吐くと、メモとペンを返した。
「この瑠璃花か。これは当てられないな。だから強気に出たのか?」
「約束よ。返して」
「約束は破るためにある」
「卑怯よ!」
そのとき。
「動くな!」
鋭い声に瑠璃花とマスクマンはハッとして声のするほうを見た。美里だ!
(先輩!)
瑠璃花は目を見開いた。

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