《MUMEI》

やがて織田は目的のものを見つけたのか、ある場所で視線を止めた。
そしてその場所へと車を向かわせる。
たどり着いたのは建設中のビルの工事現場だった。
今日は作業が休みなのか、人の気配はない。
織田はトラックなどの出入口となっている場所から車を中へ入れ、そのまま奥へと走らせる。
一番奥まったところまで来ると、織田はエンジンを止めて外へ出て行ってしまった。
「おい、なんかよくわからないが着いたらしいぞ」
ユウゴはケンイチに声をかけてドアを開けた。
外に降り立ち、新鮮な空気を大きく吸い込む。
ようやくまともに呼吸ができることにユウゴは喜びを感じた。
何度も深呼吸をしていると、ようやくケンイチも車から出てきた。
「さっさとドア閉めろよ。臭いが漏れてくる」
ユウゴが顔をしかめると、ケンイチは無言でドアを閉めた。
そして彼は空を仰ぐようにして大きく口を開け、大袈裟に深呼吸し始めた。
ユウゴは吐き気がおさまるのを待ってから周りを見渡した。
そして妙なことに気がついた。
たしかに建設中のビルなのだが、機材らしきものが何もない。
それどころか資材のようなものも見当たらなかったのだ。
「なあ、織田。なんでここに来たんだ?」
ユウゴは少し離れた場所に立つ織田に声をかけた。

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