《MUMEI》
くすぐり拷問
瑠璃花は急いで階段を駆け下りた。美里のことだから銃なんかなくても大丈夫だとは思ったが、応援を要請するのは自分の役目であることは言うまでもない。
「はあ、はあ…」
九階はなかなかこたえる。瑠璃花は息を切らしながら一段飛びで下りていったが、足を踏み外した。
「きゃあ!」
転落して踊場に倒れた。
「うう…くっ」
マンションの住人の若い男が、倒れている瑠璃花を見て驚いた。
「大丈夫か?」
急いで駆け下りて瑠璃花の肩を揺すった。
「おい、大丈夫か?」
瑠璃花は薄目を開けた。
「あ、大丈夫です」
男は瑠璃花を見つめた。ただでさえかわいいのに、挑発的な薄着。タンクトップがめくれてセクシーなおなかが覗く。
「大丈夫?」男はおなかに手を当てた。
「ハッ!」瑠璃花は手を跳ねのけた。「やめてください!」
「何その態度?」
「え?」
まずい。ここでもめている場合ではない。
「嘘です。ごめんなさい」
「何それ?」男は急に怒り出した。「舐めてる俺のこと?」
(え?)
瑠璃花は慌てた。
夜月の悪運の強さか。唯一の頼みの綱が切れたか。まさか美里まで、ドS悪魔の餌食にされてしまうのか……。
「ん、んんん」
愛らしい美里の寝顔を見つめて、夜月は早くもエキサイトしていた。
「んんん…」
美里が静かに目を開ける。
「ん!」
猿轡を咬まされて声が出せない。美里は自分の体を見て絶望的な顔をした。服を脱がされている。かろうじて下着は取られていないが、両手両足を大の字の形で拘束されては風前の灯火だ。
「んんん!」
美里はもがいた。夜月が勝ち誇った笑顔で見下ろしている。手ぬぐいできっちりと手足を縛られては、全くの無抵抗だ。
(まずい!)
内心焦ったが、美里は強気の目で夜月を見返した。
「純白の下着は、返ってそそるって知ってた?」
敵ながら神経を逆撫でする言葉で攻めて来る。美里はわざともがくのをやめてポーカーフェイスになった。
「いいね、いいね」夜月は嬉しそうだ。「たいがいの女の子は下着姿で手足縛られたら泣いちゃうけどね。さすが刑事さんだ」
美里は無表情で夜月を見すえた。
「女の子の猿轡されてる姿って好きなんだよね。目で訴えるのがかわいくて」
「んんん!」(ド変態!)
「さてと。刑事さんとお喋りがしたいな。俺と会話してくれるなら猿轡を外してあげるよ」
美里は頷かない。
「刑事さん。会話してくれる?」
美里は頷かない。ただ夜月を見すえた。
「質問に答えないならねえ。こうだよ」
いきなり両脇をくすぐられた。
「んんん!」
予期せぬ攻撃に美里は暴れた。
「んんん!」
「会話する? ねえ、会話する?」
美里は真っ赤な顔をして睨みつけたが、くすぐりまくられては勝ち目はない。
「んんん、んんん!」
「会話する?」
美里が頷くと夜月はくすぐりをやめた。
(悔しい!)
よくもこんな屈辱を。美里は怒りで体が震える思いだ。
猿轡を外された。ここで罵倒でもしたら、またくすぐられてしまう。美里は夜月の出方を待った。
「刑事さん。生意気な態度取ったら痛い目に遭わすよ」
美里は一瞬怯んだが、自分に気合いを入れた。
「今すぐほどきなさい。あなたはレイプなど取り返しのつかない凶悪事件は起こしてない。まだ罪は軽いわ。でも警察官を監禁して変なことしたら一気に罪は重くなる。それは愚かなことよ。今すぐほどいてくれたら、縛ったことと、くすぐりは黙っててあげる。悪い話ではないと思うけど」
一気に言った。夜月は美里の度胸に感動した。
「素晴らしい」笑顔で目を輝かせる。「それ勝負下着?」
「はっ…やめろ!」
質問に答えないので再びくすぐりの刑。美里は笑うまいと、息を止めて歯を食いしばった。
「ほら、笑ったほうが楽だぞ」
(チキ、ショー…)
夜月はくすぐりをやめた。
「息止めるなんてズルいぞ」
「はあ、はあ、はあ…」

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