《MUMEI》
やりたい放題
夜月は、美里の銃を手にした。美里は唇を結んで夜月を見た。
「哀願しないで交渉してくるとはねえ。でもその手には乗らないよ。警察は卑怯だからな」
「手足を縛るのは卑怯じゃないの?」
「質問に答えな。これは勝負下着?」
「あっ…」
まさか。ショーツに銃を当てられてしまった。美里は顔を紅潮させて夜月を見た。
「…違うわ」
夜月は銃を引っ込めた。
「バカだな。撃つわけないだろ。こんな物騒なものはしまっとこう」夜月はダンボール箱の中に銃を入れた。
次に美里の手錠を三つ持ってきた。
「刑事さん。これは複数の犯人を捕まえるため?」
「企業秘密よ」
足の裏をくすぐる。
「あっ……貴様、やめろ!」
美里が真っ赤な顔で怒鳴るとやめた。
「刑事さん。最初はこの手錠で刑事さんの手足縛ろうと思ったんだよね」
美里は、さすがに胸が騒いだ。そんなことされたら、たまらない。
「でも手錠で縛るのは俺のポリシーに反する。なぜだかわかる?」
また質問だ。
「わからないわ」
「手首足首に跡をつけないのはSMプレイの基本だよ。刑事さんは激しくもがくだろうと思って。だからこの手錠は使えない」
夜月は手錠もダンボール箱の中に入れた。美里は内心ホッとした。
夜月は低い天井からぶら下がっている二つの足枷を、自慢げに掴んで見せた。
「刑事さん。この足枷みたいに内側に軟らかいクッションがついているのが、SMグッズの根本精神だよ」
美里は嘲笑気味に笑みを浮かべた。
「あっSMをバカにしたね?」
美里は慌てた。
「バカになんかしてない。趣味は否定しないわ」
「そう。じゃあ、俺の大事なSMルームのドアを壊したから、警視庁に弁償してもらおう。ハッハッハッ!」
美里は呆れ顔で聞いた。
「管理人はよく黙ってるわね?」
「管理人もここを使ってるからだよ」
「え?」美里は耳を疑った。
「世の中こんなもんよ。日本の警察がゆーしゅーだから。クックック」
挑発に乗ってはいけない。美里は唇を結んで夜月を見すえた。
「いいね、いいね。簡単には参らないね。いつもライトSMでみんな泣いちゃうから、それ以上のことはできない。でも刑事さんならハードプレイに耐えてくれそうだ」
笑顔の夜月に、美里は言った。
「自ら罪を重くするなんて愚かよ。大事な30代を刑務所の中で暮らしたいの?」
夜月は真顔になると顔を近づけてきた。
「強気な子を屈服させるのが俺の趣味だ。おまえは俺が追い求めていたヒロインかもしれない」
「あなたにおまえ呼ばわりされる覚えはないわ」
くすぐりが来ると思って身構えたが、来なかった。
「刑事さんの名前知らないから。名前教えて」
美里はためらった。名前を言えば騒ぐに決まっている。
「質問を無視したら…」手が脇に伸びる。
「美里よ」
「ミサト!」
夜月の目が爛々と輝いた。怖過ぎる。
「ミサト。天使みたいな名前だな。漢字を一発で当てられたら下着を取られちゃうっていうゲームはどうだ?」
「美しいにふる里の里」美里はあっさり言った。
「よくも俺の楽しみを!」
「あっ……」
また脇をくすぐりまくる。
「くっ」
今度は長い。脇の下と脇腹を巧みに上下してやめてくれない。息ができない。美里は真っ赤な顔をしてもがいた。
夜月は手を止めた。
「はあ、はあ、はあ…」
今さらながら、女は絶対に手足を縛られてはいけないと思った。美里は悔しさを噛み締めた。
(これ以上好きにされてたまるか!)
無抵抗なのをいいことに、夜月はやりたい放題だ。
「美里。下着取っていい?」
美里は手足に力を入れた。しかし手ぬぐいはびくともしない。
「美里の裸が見たい」
(こいつ。本物のドSだ)

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